ーー他のアクセラレータへの申し込みは?
じつは、Yコンビネーターも最終面接までいった。レンタカーでサンフランシスコに行ってプレゼンしたよ。でも、受からなかった。どうも照明器具を操作するだけの会社に思われたみたいでね。
夜9時頃、少し気落ちしてサンフランシスコのバーで飲んでいると、テックスターズから「最終選考に残ったので明日、面接をしたい」というメールが届いたんだ。クルマを夜通し17時間も走らせてボルダーまで戻ったよ!
実際、僕らは必死だった。父が貸してくれた資金も底をついていた。クレジットカードの残高もすべて上限に達していた。昼食のたびに、「どのカードに10ドル残っているか」と確認したのを覚えている。
ーープログラムはどのように進んだのでしょうか。
初日は、例のドアの開閉やベビーモニターを操作することばかり考えていた。
でも、すぐにメンターに「プラットフォームはやめたほうがいい」と言われたんだ。プラットフォームを構築するには、ビジネスのつながりがないと厳しい。彼は、技術者の僕らでは難しいと見抜いたんだね。
2日目の深夜3時頃、「簡単なものにしよう」と僕が腹を決めて言うと、アダムが「ビー玉とか?」と返してきた。そのときに僕が中学生の頃に作ったボール型のロボットを思い出した。そこで、「スフィロ」のコンセプトが生まれた。
ーー早い段階で会社の方向性が決まったのですね。
でも、そこからが長かったよ。多くのメンターにアドバイスをもらいながら、プロダクトを改善してデモ・デイに備えないといけないから。メンターの1人で連続起業家のポール・バーベリアンは、週に3〜4日会ってアドバイスをくれたよ。ちなみに、彼は会社に加わってくれて今ではCEOを務めている。
ーープログラム中の1日はだいたいどんなものだったのでしょうか。
当時はビルの地下室で開発をしていたよ。食べ物を持ち込んで毎晩徹夜していた。ソファで寝泊まりして。Tシャツ姿でビルに入ったのに、次に出たときは雪が降っているなんてこともあった。
ーーディズニーとテックスターズの共同プログラムにも参加していますね。
11年に球形ロボット「スフィロ」を市販した後、キャラクター設定があった方がいい商品になると閃ひらめいたんだ。それで「スフィロ2.0」が生まれた。でも、ディズニーがテックスターズと共同プログラムを開くと聞いて、キャラクター作りとストーリーテリングに優れた彼らから学びたいと思った。
その頃、僕らは社員60人を抱える会社で3400万ドルの資金も調達していた。そんな会社がアクセラレータに戻るのも変な感じだけれど、アダムと僕とで4カ月間、ロサンゼルスでプログラムに臨むことにした。
ボブ・アイガーCEOと会うと、彼がiPhoneで制作中の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のセットの写真を見せてくれた。その1枚に、「BB-8」があった。これはボブを含めて一握りの人しか知らない超極秘事項だった。それが、ボブに「これは君らが作っているスフィロに似ていない? もしよかったら作ってくれないか」と言われたんだ。
プログラムに参加している他社が帰った後、急いでプロトタイプ(試作品)を作って、iPhoneで撮影。その夜のうちにボブに送ったよ。
ーーディズニーと働いたことで、スフィロにどのような影響をありましたか?
無事に発売できて、社員も増やすことができた。それで、多くのプロダクト開発にも乗り出せるようになった。僕らの会社にとっては、まさに最高の「アクセラレータ(加速装置)」になったよ。
スフィロ(Sphero)◎2010年創業、米コロラド州ボルダーに拠点を置くロボティクス企業。テクノロジーとロボット工学を駆使してコネクテッド・トイを開発している。16年夏には、プログラミングを学べる球形ロボット「SPRK+(スパークプラス)」を開発している。
ドロイド『BB8』/ディズニー・アクセラレータ・プログラムの一環で、映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に登場するドロイド「BB-8」の公式商品を共同開発。アプリで操縦できるほか、音声認識で反応したり、録画メッセージを仮想ホログラムとして映し出したりできる。