ビジネス

2017.03.15

NY発のマッチングアプリ 創業者が「アジア人向け」にこだわる理由

時岡 真理子 EastMeetEast 創業者兼CEO

3年ほど前のある寒い冬の日。時岡真理子は、ニューヨークのブライアント・パークを何枚もの小さなカードを持って歩いていた。

「独身ですか?恋人いませんか?」

アジア系の人々を見かけたら片っ端から声を掛け、自社のサービスを説明する。

「思い返せばまるでナンパ」と笑うが、必死だった。彼女が2013年にニューヨークで立ち上げたのは、アジア人に特化したマッチングサービス「EastMeetEast」。米国及びカナダで暮らすアジア人の男女を結ぶ婚活アプリだ。このサービスはユーザーなくしては成立しない。「ビラ配りなんてやりたくない」というスタッフを説得しながら、なんとか100人を集めた。

サービス開始から3年。交際に発展した人は2000人を超える。16年の売り上げは、前年比770%の伸びを見せた。

Match.comにTinder……。マッチングサービスが欧米で広く浸透するようになって久しい。時岡が「アジア人向け」にこだわったのはなぜか。

オックスフォード大学院で社会起業のプログラムに参加した後、ロンドンで教育系モバイルアプリ「Quipper」の創業に携わった。忙しい毎日。でも、将来的にパートナーは欲しい。大手のマッチングサービスを利用してみるも、掲載されているのは、名前に年齢、そして顔写真のアピールに違和感が残った。

「かっこ良いか、かっこ良くないかくらいは分かっても、ここからどうやって恋愛に発展するのか。ルックスがすべてのように感じました」

アジア人に特化したサービスを思いつき、インタビュー調査を重ねて分かったことがある。アジアの人々はパートナーを選ぶ際、食や教育といった生活に関わる価値観の共有を大切にする。EastMeetEastでは、そんな文化的背景にも重きを置く。今年は“逆輸入スタートアップ”として、アジアでも展開する予定だ。

起業プログラムを受講すると決めてから、ずっと「社会にインパクトを与えられる仕事」にこだわってきた。Quipperの創業に携わったことで、学んだことが大きく二つある。一つは、思いを語ること、ストーリーとして伝えることの大切さ。もう一つは、どんな相手に対しても、愛と誠意を持って伝える、ということ。

「最終的には『人』対『人』。相手が取引先でもスタッフでも同じです」

さまざまな国籍のスタッフを束ねる立場ながら、肩で風を切って歩いているようには見えない。思いに忠実に、国境を軽やかに超えてきた。気づくと周囲が気持ちで応援している。

これから世界で活躍するのは、時岡のような人なのかもしれない。


時岡 真理子◎米国の大学を卒業後、日本オラクルでシステムエンジニアとして働く。20代後半でロンドンに渡り、オックスフォードでMBAを取得後、教育系モバイルアプリ「Quipper」を共同創業。2013年12月にニューヨークで「EastMeetEast」を創業。オフィスはウォールストリートにある人気のコワーキングスペース「WeWork」にある。

文=古谷 ゆう子、写真=OGATA

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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