それまで合併吸収を繰り返してきた大企業は、現地の経営陣に迅速な経営判断を任せるために分権的組織構造を導入していた。だがグレイナーは、この「権限委譲」段階は既に時代遅れになっていると考えた。
企業が危機に陥った理由は、競合に対抗するために必要な全社的「調整」機能が欠けていたからだった。そこで注目されたのが、マトリックスと呼ばれる新しい組織構造だ。
マトリックス組織とは、指揮命令系統を従来の階層型ではなく、縦・横の格子状にした組織構造で、各マネジャーが2つの所属を持つことを特徴とする。洗濯用洗剤の現地マーケティング部長は、現地支部長の部下となると同時に、製品の世界展開を監督する本社の洗剤部門部長の部下にもなる。「地球規模で考え、足元から行動する」ことを可能とする構造だ。
だが、どんな組織構造にも寿命はある。インターネット時代の到来により、多くの大企業が、シリコンバレーの「破壊的」新興企業に脅かされるようになった。こうした企業は、シンプルな組織構造と、野心的な創業者、そして忠誠心の強い従業員らを武器に、既存産業を次々と乗っ取っていった。
大企業の間では今、シリコンバレー式の敏捷性を組織に取り入れる動きが主流化している。GEは「リーン・スタートアップ(無駄のない起業)」というビジネス開発手法を従業員数33万人の自社組織に適用した。これは、グレイナーの企業成長モデルでの最終段階、つまり「調整」から「協働」への移行に当たる。
だが相手に学んでいるのは既存企業のみではない。ウーバーもまた学んでいる。ただ、ウーバーが位置している成長段階は、大手企業とは真逆、つまり第1段階に当たる。