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「初めて1つのピクセルを宙に浮かべ、それを部屋中のどこへでも動かすことができたときは、本当にワクワクしたよ。外部の人間は、『なんだあれは。ただの点じゃないか』なんて言っていた。でも僕らにはわかった。あの時点で、『うまくいく』と確信したんだ」

アボヴィッツは、もっと多額の資金が必要になるとも確信していた。当初は、マコ・サージカルの上場で得た利益をマジック・リープの運営費用に充てた。さらにマコが13年に医療機器メーカーのストライカーに17億ドルで買収されると、その利益の一部も投じている。アボヴィッツは、マジック・リープの運営に費やした正確な額を明かさないが(「数百万ドル規模」だそうだ)、それだけではとうてい足りなかった。

幸いなことに、同社の技術力が解決への道筋を切り開いた。

「はじめは僕らがやっていることを説明しても、信じてもらえなかった。それで実際にここに来て(試作品を)見てもらうと、『おお、本当に実現したのか』と言うんだよ。出資者は全員、そうやって態度を変えていったんだ。『ありえない』から、『一口乗りたい』へとね」

ハリウッド大手が“MR映画”を製作

むろん、この分野にチャンスを見出している実業家はアボヴィッツだけではない。この1年間だけでVRとARの両分野には23億ドルが投じられている。また、市場調査会社のIDCは、世界のARとVR市場の収益は16年の52億ドルから20年には1,620億ドルに伸びると指摘している。

このような急成長が見込まれるとあって、大手はどこも、先を競ってその分け前にあずかろうとしている。今のところ、最大の競合はマイクロソフトだろう。同社は14年に「ホロレンズ」というMRのヘッドセットを発表している。16年3月には、開発者向け製品の出荷が始まった。一般消費者向けの製品も、17年中に発売されるかもしれない。

アボヴィッツはマジック・リープの製品の発売時期について、「近いうちってところかな」と思わせぶりな口調で言う。ヘッドセットの価格についても「高級製品ではないよ」と口にした。

大半のテクノロジーと同様、MR普及への道を拓くのは、まずは娯楽分野での成功だろう。マジック・リープはコンテンツの多くを社内で開発し、すでに複数の著名なゲームデザイナーや漫画家、アーティスト、作家を雇い入れている。92年刊行されたVRがテーマの独創的な小説『スノウ・クラッシュ』の著者、ニール・スティーヴンスンは、マジック・リープの「チーフ・フューチャリスト(最高未来責任者)」を務め、現在は同社のシアトル支社で未公表のゲーム開発に携わっている。他のコンテンツは、前出のウェタ・ワークショップにいる仲間が製作中だ。同社はマジック・リープと共同で、総勢25名の開発ラボをニュージーランドで運営している。

またマジック・リープは16年6月、映画製作会社ルーカスフィルムの仮想体験ラボ「ILMxLAB(アイエルエム・エクスペリエンス・ラボ)」と戦略的提携を結んだ。両社はルーカスフィルムのサンフランシスコのオフィスに共同研究開発室を開設している。

「まるで映画の黎明期の真っただ中にいるかのようです」と興奮気味に話すのは、ILMxLABの代表、ヴィッキー・ドブス=ベックだ。

両社の提携は、すでに『スター・ウォーズ』の世界を舞台にした複数のMR作品を生み出している。その一つは提携の発表時に公開されたもので、ドロイドのC-3POとR2-D2が登場する(上のCG)。もう一つの未公開のアクションシーンは、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』を象徴するシーン、「ホスの戦い」が舞台だという。

こうしてロニー・アボヴィッツの人生は再び原点に戻ってきた。「Xウィング戦闘機を作りたい」という夢を密かに抱きながら事業を立ち上げた男は、今まさにその戦闘機を作っているのだ。


マジック・リープ◎2010年、ロニー・アボヴィッツが前身となる「マジック・リープ・スタジオ」を米南部フロリダ州に創業。MR(複合現実)関連のスタートアップだが、事業内容のほとんどが非公開。有力ベンチャーが多額の出資をしていることが話題を呼び、次世代の仮想現実テクノロジーの本命と見る向きも。企業価値は45億ドル。

文=デビット・M・イーウォルト、翻訳=木村理恵

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