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2017.03.08

軍が起業家の揺りかご──イスラエル「8200部隊」の秘密(後編)

キラ・ラディンスキー(29)は現在、セールスプレディクト社の共同創業者。除隊後、専門技術を民間セクターに持ち込んだ。


入れ替わりの激しさを強みに

ナダフ・ザフリル(46、写真2枚目)はサイバーセキュリティのインキュベーション企業「チーム8」の共同創業者兼CEOだ。ザフリルは8200部隊の司令官を5年間務めたあと、13年に除隊。在任中にはサイバー空間の戦いに目を光らせる精鋭チーム「サイバー・コマンド」を創設した。
 
彼は部隊の流動性を評価している。兵役期間は平均4年だが、この最先端の技術部隊でも毎年25%ずつ人員が入れ替わる。一般の大企業ならギョッとするような数字だが、動きの速いITの世界ではこれが大きなメリットになると、ザフリルは主張する。

「毎年若さと賢さ、やる気と情熱を持った男女が入ってくるのです。新たな視点から課題に目を向ける者たちがね」
 
また8200部隊の除隊者は、他の在郷軍人と同様40代前半まで、年間最大3週間の予備役を務める。除隊後も10〜20年にわたって後輩が開発する最新テクノロジーに触れることができるのだ。
 
時には8200部隊自体が、優秀な隊員の起業を支援するインキュベーターの役割を引き受けることもある。イスラエル経済にとっては、雇用や富が創出される上に、国内のIT技術者に一定の刺激を与えることにもなるとザフリルは言う。

「彼らは『自分ならもっと稼げるぞ』と思うのです」

8200部隊の人脈が企業をつくる

エラド・ベンヤミン(41、写真3枚目)の父、メナシェは8200部隊で25年間を過ごしたあと、医療画像用のソフトウェアを作る会社を起業した。

「8200部隊で得たものがなかったら、父が起業するのは難しかっただろうと思います」とエラドは言う。それは、医療分野のスタートアップを立ち上げた彼自身にしても同じなのだ。
 
メナシェの会社が最終的にコダックに買収された時、社員の3分の1は8200部隊のOBだった。現在エラドが雇っている社員の半数も、同部隊の出身だ。
 
スタートアップ国家のイスラエルでは、8200部隊OBのネットワークを過小評価することはできない。エラドは、8200部隊で除隊を間近に控える者を1人つかまえ、そこから情報を得てさらにメンバーを勧誘するという。これこそが確実に、優秀な人材を採用する方法なのだ。

「彼らは一定水準の自信とスキルを兼ね備えています」と、エラドは言う。

「24歳の彼らは5〜6年にわたり、現実世界で、任務に即したシステムや製造物やシナリオを扱っています。理論ではなく、実践をこなしてきたのです」


8200部隊(Unit 8200)/イスラエル諜報機関◎独立以前から存在した「シンメン2(ヘブライ語で「新たな軍務」)」が1973年の第4次中東戦争後に再編成され生まれたIT産業研究開発のハブ。実態はほとんど知られていないが、イスラエル軍の情報作戦には欠かせない諜報機関。

文=リチャード・べアール、翻訳=町田 敦夫、写真=ジャメル・トッピン

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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