「芸術は右脳」説はウソ 米国の脳機能の専門家が指摘 

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人間はなぜ、本能的に美しいものに惹かれてしまうのだろうか。脳のどの部分がアートを生み出し、アートを愛する気持ちを生んでいるのだろうか。その答えを追い求める学問が神経美学だ。ペンシルベニア病院で神経学の責任者を務める神経美学のパイオニアAnjan Chatterjee教授に話を聞いた。下記は教授の発言をまとめたものだ。

脳に損傷を受けた人の一部は、芸術的表現力が向上することがあります。しかし、他の高次脳機能(認識、判断、創造などの機能)が向上するという話は聞いたことがありません。脳の損傷により、芸術的表現力が必ず向上するわけではありませんが、向上するケースがある以上、どのような仕組みになっているのか解明する必要があります。

芸術に関係するのは右脳だけではない

「右脳こそが芸術を生み出す」と考えるのは完全に間違っています。これだけは皆さんに覚えておいてほしいことですが、もっと脳の広い範囲が関わっており、芸術の種類によっても各部分の働きの度合いが変わってきます。細かくて現実的なアートと、抽象的なアートでは全く捉え方が違います。脳の異なる部分を使う、大きく異なる作業なのです。

おそらく左脳が言語をつかさどっていること、そして右脳が視覚的情報等の処理をつかさどっていると見られることから来ているのでしょう。そこからアートは視覚的であり言語的ではないため右脳が作り出しているに違いないという推論が出てきたのだと考えます。この考え方を広めた本が70年代に出版されており、俗説が定着したものだと私は考えています。

人間は生まれつき飾りたい動物

人間には飾りたいという衝動が生まれつきある。様々な時代においてそれは見られ、ネアンデルタール人が残した壁画からもそれは分かります。実用性ではなく、見栄えをよくしたいという気持ちが根付いているようです。

現代で言えばこれは、Macを使う人が他の製品と比べて性能が同じでもデザイン性の高いものに余分にお金を払う傾向にも見られます。実用性よりも美しさに対してより高い金銭的価値を付けることがあります。これは人間の根本的な側面なのです。

なぜこういう傾向があるのかは、簡単には答えられない深い質問です。何かを誇示するためと言う人もいるかもしれません。例えばクジャクが羽を開く行為は装飾的な誇示でしょう。つまり生物学的基盤が文化と交わり合って生まれる様々な要素が組み合わさっているのだと私は考えます。

編集=上田裕資

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