社会的事業としてヴェイサルジェルを開発するカリフォルニア州の非営利団体、パーセマス財団(Parsemus Foundation)によると、その仕組みはパイプカットと似ているが精子の遮断効果がより高く、一度の注入で何年にもわたる避妊が可能だという。
パイプカット手術が睾丸と尿道を結ぶ精管の一部を切断、焼灼するのに対し、ヴェイサルジェルは精管内にジェル状のバリアを形成し、射精時に精子をブロックする。ジェルはやがて体内に吸収されるが、アカゲザルより小さな動物を使った実験では、重炭酸ナトリウム(重曹)溶液を注入するだけでバリアを除去できるという結果が出ている。
パーセマス財団の創業者で医学研究所ディレクターであるエレイン・リスナーは長年、コンドームに代わる男性の避妊方法を探求してきた。「ELLE」誌2016年4月号のインタビューでは「研究者人生の大半を男性にも女性にも頼りになる、副作用のない避妊方法を開発することに費やしてきた」と語っている。
ヴェイセルジェル開発のヒントとなったのは、インドで約20年前から使われている避妊ジェルだ。「管理下における精子の可逆的抑制」(RISUG)と呼ばれるこの避妊方法は、インドのスジョイ・K・グハ医師が開発したもので、インド人男性200人が参加した試験で最長10年の避妊効果が認められ、世界中の注目が寄せられた。
製薬会社には「悪夢」をもたらす
2010年、BBCニュースの取材にグハは、「数週間に一度は欧米の人々がやって来る。問い合わせだけでなく、多くの人がわざわざ病院を訪れ、ジェルの注入を依頼する。長続きする避妊薬の需要があるということだ」と答えている。
ヴェイセルジェルの商品化にはさらなる研究が必要であり、パーマセス財団は現在、研究費の寄付を募っている。問題は製薬会社が乗り気ではないことだ。リスナーは前述のBBCニュースの取材に「製薬会社にとってこの避妊薬は悪夢です。世の男性にとって理想的なのは安くて長期間作用型の薬ですが、製薬会社の理想は高価で短時間作用型の薬なのです」と答えている。
望まない妊娠により、女性のみが肉体的負担を抱えることを考えれば、利益率よりも優先すべきことがあるはずだ。