問題となっているのは、メディカル・ミディアム(医学霊媒師)を自称するアンソニー・ウィリアムによるアドバイスをQ&A形式で紹介した「ヨウ素を否定すべきでない理由」と題された記事。ウィリアムはその中で次のように語り、人々にヨウ素サプリの摂取をすすめている。
「ヨウ素は、主に次の2つの理由で必要不可欠だ。(1)免疫系は機能するためにこのミネラルを必要とする(2)ヨウ素は自然の消毒剤。なので、ヨウ素は体への侵入者を撃退する免疫系を助け、病気に対する免疫力を強めてくれると同時に、それ自体にウイルスや細菌を追い払う力がある。ヨウ素を摂取する人は、病院でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)のようなものに感染する確率が下がる。この耐性菌はヨウ素が十分に存在する体内では繁殖できないからだ」
産婦人科師のジェン・ガンターは自身のブログで、「この記事の内容はほぼ全てが間違っており、潜在的な危険性がある」と切り捨てている。彼女は以前にも、Goopのサイト上でのアドバイスに異議を唱えたことがある。その時の批判の対象は、膣内に石を入れることで性生活などを向上できるとうたう「ジェード・エッグ(ヒスイ卵)」なる商品だった。
ガンター医師は「グウィネス・パルトローとGoopがヨウ素について危険な情報を発信。彼女らの専門家の情報源は幽霊」と題した今回の投稿で、内分泌学者のエレナ・A・クリストフィデスと共に、ウィリアムの主張に一つ一つ反論している。
Goopの記事で最もまずいのは、ヨウ素がMRSAなどの感染症から体を守ってくれるという主張だ。この情報を裏付ける科学的根拠はどこにあるのか。
ウィリアムのウェブサイトをみてみると、こんな紹介文がある。「アンソニー・ウィリアムは生まれたときから、しばしば時代に大きく先んじた医学情報をもたらす高位の精霊(high-level spirit)と会話する特異な能力を持っていた」。学術文献検索サービス「PubMed」で“high-level spirit”という著者名を検索してみると、こんな結果が表示された。「この検索語に適合する文献はありません」
彼の主張によって、健康サプリが予防接種や抗生物質、接触予防策といった感染症予防法の代替となるという誤った認識を持つ人が出てくる恐れがある。サプリへの過信が広まって、予防接種を受ける人が減ったり、新たな抗生物質の開発が遅れたりすれば、感染症の流行にもつながりかねない。
米国では予防接種を拒否する運動が広まっているが、果たしてこの背後にいる人々のうち、サプリの販売で利益を得ている人はどれだけいるのだろうか。科学者のスティーブン・サルズバーグは、過去にフォーブスに寄稿した記事で、「インターネットサプリセールスマン」のジョゼフ・マーコーラについて、「反ワクチン運動における最も悪質な人物の一人」と批判している。
もし予防接種などの感染症予防法に激しく反対する人がいたら、疑問に思ってほしい。「この人を実際に導いている『高位の精霊』の正体は何なのか」と。