2016年3月6日、民営化を4カ月後に控えた仙台国際空港株式会社の取締役営業推進部長を務める岡崎克彦はフィリピンの首都マニラにいた。海外エアラインを誘致するため、国際航空路線商談会「ルーツ・アジア」に参加したのだ。事前にマッチングを申し込んでいた複数の海外エアラインの要人と、それぞれ約20分ずつの商談が設定されている。短い時間だが、仙台空港に就航するメリットを伝える“真剣勝負”の場だ。
コンセッション方式を導入し、国管理空港の民営化第1号に選ばれたのが仙台空港。東北地方を襲った巨大地震から、まもなく5年。復興へと歩みを進める東北地方の命運を賭けた空港民営化プロジェクトの1年目を占う重要な商談となる。
「とにかく最初に取り組まなければならないのは旅客数の拡大。民営化前の仙台空港は年間乗降客数311万人、そのうち290万人が国内線利用です。インバウンドブームにもかかわらず、国際線利用客が圧倒的に少ない。目標である年間乗降客数550万人を達成するためには海外エアラインの誘致が必要でした」と岡崎は語る。
誘致の交渉はシビアである。エアラインが希望する発着時間の混雑度や着陸料、それに乗降客の掘り起しに向けた対策など、あらゆる条件が交渉のテーブルに乗る。その点、豊田通商から仙台国際空港株式会社に出向している岡崎は商社マン。そうした厳しい交渉も数多くこなしてきた。岡崎らは、この真剣勝負で成果を出した。
「旧トランスアジア航空や東北発となる国際線LCCのタイガーエア台湾が就航を決めるなど、実りが多かった。今年の「ルーツ・アジア」は国内初開催となり、3月に沖縄で開かれる。ここでも真剣勝負してきます」(岡崎)
民営化に合わせて、アシアナ航空が週4便から週7便に、エバー航空が週2便から週4便に増便。さらに、今夏からスカイマークの神戸―仙台便が復活、ピーチも仙台を第三の拠点とすることを決めた。発着便は順調に増えている。
「次の課題は、いかにしてお客さまを増やすかです。仙台空港を、東北を発着するお客さまから第一に選ばれる“プライマリー・グローバル・ゲートウェイ”、つまり、東北の空の玄関口にしなくてはならない。昨年はそのための準備に力を注ぎました」(岡崎)
岡崎らがまず取り組んだのは、二次交通の整備だった。空港と仙台駅を結ぶ仙台空港アクセス線について、JR東日本、仙台空港鉄道、宮城県に協力を仰ぎ、1日6本(3往復)へと増便に成功。また、東北地方での移動において重要な足となる高速バスについては、会津若松・福島線、松島・平泉線、鶴岡・酒田線といった路線も整備した。
さらに、空港内商業施設の運営では店舗の拡充に取り組むなど、利用客数の拡大・売上の増加を目指している。民営化でパートナーを組んだ東急グループが持つ、百貨店や商業施設のノウハウを総動員して取り組んでいる。
「商業施設の売り上げがアップすれば、それだけ着陸料を下げることができる。乗降客数の伸び以上に、売り上げの伸びと収益の向上を目指して一丸となって取り組んでいます。おかげさまで、売店の売り上げは順調に伸びています。この4月には、東北に到着されたお客さまを最初にお迎えする1階エリアをリニューアルし、利便性をアップさせます。2・3階のリニューアルでは、保安検査を通過されたお客さまがゆっくりと過ごせるように店舗構成を変えていく予定です」(岡崎)
最大の課題ともいえるのが貨物営業。現状で年間6,000トンの実績を2.5万トンに伸ばす目標を掲げている。ハードルは高いが、物流ノウハウは総合商社の強みでもある。東北の豊かな農産物・水産物をもってすれば、目標達成は可能だと岡崎は見ている。
「鮮度が命の農産物・水産物を、収穫・漁獲したその日のうちに東南アジアの各国に届けたい。東北の食文化を世界へ広め、東北の食品輸出拡大を目標に設立された“東北・食文化輸出推進事業共同組合”がこの3月から活動を開始します。海外への販路開拓に挑戦する東北の農林水産業者の方々を支援し、地域活性化に積極的に貢献する。仙台空港を拠点とする人やモノの流れを拡大する。それが我々の使命だと思っています」(岡崎)