(左)葛 鴻鵬(AI inside 取締役 CTO)(右)渡久地 択(AI inside 代表取締役 CEO)

2015年8月に創業したAI inside。創業してわずか1年半にもかかわらず、人工知能(AI)を使った手書き文字の認識技術を金融、広告、不動産分野に提供している。将来的には未来予測にも進出する考えだ。同社の創業者で代表取締役CEOの渡久地 択にこれまでの道のりを聞いた。

最初に起業したのは19歳のときです。それまで音楽をやっていたのですが、あるときライブハウスの出演料が高いことに皆が悩んでいることに気づき、自分で公共の大型施設を借りてイベントを企画したんです。すると、出演者から「こんな安い出演料で大きな会場で演奏できるなんて」と大変感謝されました。このとき、ビジネスで利益を出して人に喜んでもらうことに強い興味を覚えました。

「人に求められる事業をしよう」と考え、まず今後200年で起きることの年表をつくろうとしました。しかしまったくうまくできません。そこで、過去100年で何が起きたかを年表にしました。すると、今後確実に重要になるのが人工知能(AI)と宇宙開発だと思えてきたのです。

「自分がより興味をもてるのはAIのほうだ」と考え、将来的にAIのビジネスを目指すことに決めました。

しかし、いきなりAIに取り組むのは難しい。そこで、AIにつながりそうなネットビジネスから始めることを決め、衣食住に関するポータルサイトをつくりました。2003年ごろのことです。事業に夢中になって、入学したばかりの大学をすぐに中退しました。

最初はお金がなかったので、何をやるにもすべて自分ひとり。海外のサイトのソースコードを見てプログラミングも勉強しました。完全な独学だったので、非効率なこともたくさんやっていましたね。

このポータルサイトには、サイト内のコンテンツを文章のような自然言語で検索できる機能を付けました。AIに関連しそうな技術を使いたかったからです。

21歳のときに、そのポータルサイト事業を買いたいと声がかかり、「将来的にAIをやるためには次の事業に移るべきときかもしれない」と考えて売却しました。その後もいくつかの会社を立ち上げて、ときには失敗しつつも、満足できる成果が出た会社はその時点で売却し、AIに取り組むための下地をつくっていきました。

手書き書類のデジタル化にAIを活用

実際にAIのサービス化に取り組んだのは2012年からです。そこから3年間、会社を売却してつくった自己資金を投じて研究開発を続けてきました。

AIはいろいろな分野に適用できる技術です。私は年表をにらみ、活用すべき分野を徹底して考えました。その結果、最もニーズが高いだろうと判断したのが、情報の整理です。デジタルデータを整理して有効に活用するための技術はグーグルをはじめ多くの企業が取り組んでいますが、アナログデータ(手書きの書類)をデジタル化して整理することはほとんど手付かずです。ここにAIを活用することに決め、15年にAI insideを立ち上げました。

会社のミッションは「社会のデジタル・トランスフォーメーションを実現する」としました。

当社の技術は、OCRと呼ぶ文字認識技術に人工知能を組み合わせたものです。人が手書きで書いた文字を人工知能が高い精度で認識してデジタル化します。これまで手書き書類のデジタル化といえば、ほとんどの場合、人が目視して手入力していました。当社の技術を使えば、入力が速くなったり人件費が抑えられたりといったことに加え、人の目に触れずにデジタル化し、さらにデータを個人情報として意味をなさないレベルまで切り分けて匿名化することが可能です。

「自分の個人情報を預けると、対価として利便が得られる」ということを許容する人は多いと思います。ただ、私はそう思えません。自分ではなく、子どもや大切な人のデータだったらどうでしょう。私なら、知らない企業にデータを渡すことに大いに抵抗を感じます。

この強みを生かすため、まず銀行や証券、保険など金融業界に技術を売り込むことにしました。金融業界では申し込み書類などの手書き書類を、アウトソーシングサービスを利用して手入力でデジタル化しています。それでいて、BPOの市場は国内全体で4兆円もあるので、経済合理性が高いと思えたのです。また金融業界はセキュリティに対する要求が極めて厳しいなど、導入へのハードルが最も高いため、そこで使えると判断されれば、他のどの業種でも使ってもらえるという計算もありました。

現在、すでに銀行、証券、保険をはじめとする金融法人での実証実験を行い、さらに、広告、不動産関連企業との運用の実績も残しています。

未来予測も視野に

人工知能を主体としたOCR事業をビジネス化するという部分ではパイオニアになれると信じています。当社の文字認識技術は特許を取得済みなので、他社から簡単に真似されることはありませんから。

また、情報を匿名暗号化して交信する技術についても特許を持っています。近い将来、量子コンピュータが実用化され計算力が桁違いに上がる。そして、単純な“暗号化”では暗号が破られてしまうようになるでしょう。そこで必要になるのは、“暗号化”ではなく、“匿名化”です。当社の文字認識技術は、すでに“匿名化”の仕組みを備えています。

匿名化の技術は、文字認識だけではなく未来予測にも活用できます。例えば、「AさんがコンビニでB商品を買った」という情報をAIで分析します。この情報を匿名化し、年齢や性別などさまざまな情報を分析すれば、セキュリティの心配が一切ないかたちで高い精度のレコメンドができます。こういった分野にも進出していきたいです。

今後は事業を拡大するために、新しい人材を当社に迎えたい。AIの技術者以外にも、企業システムをオンプレミスで開発できる人やインフラのエンジニア、広報ができる人にも来ていただきたいです。匿名化の技術の話ではありませんが、当社も「この先の社会はこうなる」という未来予測をしたうえで、必要な技術を考えます。これまでも非常に優秀な方に入っていただきましたが、当社のビジョンに共感してもらったからだと思っています。

理念を共有できることも大事ですが、それ以上に重要なのは「いい人」であること。今まで魅力的だと感じて入社してもらった方は結果的にいい人ばかりです。そういう方と一緒に働けたら嬉しいですね。

AIのエンジニアとして社会に貢献する
葛 鴻鵬 AI inside 取締役 CTO

私の業務は、文字認識をリアルタイムで行うことです。これまではデータをある程度ためて、業務時間外などに一定の時間をかけてデータを処理する「バッチ処理」が中心でしたが、今後は店頭などでリアルタイムに処理する技術を提供したいと考えています。日本はAIが専門の会社は少ないので、AI関連のエンジニアとして働けること自体にやりがいを感じていますし、会社のビジョンに共感しています。人間にとって重要なことは、幸福と健康。今後は、もっている技術を使って、このふたつが実現するよう社会に貢献していけたらと思っています。


渡久地 択(とぐち・たく)◎AI inside株式会社 代表取締役CEO。2004年より人工知能の研究開発を始め、15年に同社を創業。サービス開発と技術・経営戦略を指揮し、以下多数の技術特許を発明。画像認識と自然言語の組合わせ機械学習による文字認識技術、情報を匿名暗号化して交信する技術、匿名情報からの仮想人格生成とレコメンド技術、画像処理を用いた暗号化技術。

葛 鴻鵬(かつ・こうほう)◎名古屋大学大学院卒業後、株式会社デンソーにて「交通情報可視化システム」「交通情報図形情報サービス」「バイナリデータの解析・分析・データ通信」を開発し、中国大手上場会社にて「ナビ地図差分更新プロジェクト」「全体生産管理」を統括。その後、IVI(In-Vehicle Infotainment)製品開発、ADAS技術、画像認識技術に携わる。

promoted by AI Inside photograph by Shuji Goto text by Yohei Yoshida edit by Akio Takashiro

 

あなたにおすすめ

SEE ALSO