この動きは中国と韓国の間に巨大フィンテック連合を生むことになる。アントの決済アプリ「アリペイ」は4億5,000万人以上の利用者を抱え、カカオトークは韓国のスマホ利用者の9割以上がインストールしており、カカオペイは既に1,400万人に利用されている。
韓国には年間800万人の中国人が訪れており、韓国側としてはインバウンド収入の増加も期待できそうだ。
中国のアントは今後10年で20億人の利用者獲得を目標に掲げ、Visa やマスターカードを撃破しようとしている。アントの企業価値は600億ドルにのぼり、決済だけでなくマイクロファイナンス事業も運営。インドやフィリピン、タイの同種企業にも出資し、米国の送金サービス企業MoneyGramの株式を8億8,000万ドルで買収しようとしている。
一方、カカオ側は2月9日発表の決算で、売上高が初めて1兆ウォン(約1,000億円)を突破。フィンテック分野への注力を進めている。カカオペイの対応分野を公共料金の支払い等に広げ、配車アプリの「カカオタクシー」にもアプリ内課金を導入しようとしている。また、カカオは韓国初のネット限定銀行の設立を目指すコンソーシアムにも加わった。
また、「カカオドライバー」や美容室の予約、ホームクリーニングの事業も立ち上げ、人工知能の研究を行うR&Dセンターも開設した。
韓国のフィンテック分野への出資額は昨年7,600万ドル(約86億円)に達し、テック領域では最大の伸びとなった(調査企業TheVCのデータ)。テキストメッセージで決済が可能なサービス「Toss」を運営するスタートアップ企業Viva Republicaの年間取扱額は20億ドルに達している。しかし、小規模企業らは政府の規制への対処に苦慮し、伸び悩みも見られる。
LINE運営元は北米進出を宣言
カカオの競合のサムスンペイは500万人の利用者しか獲得できていない。大手金融機関では今でもインターネットエクスプローラーが使われており、モバイルへの対応は遅れている。
中国のアントが世界のフィンテックの覇権を握ろうとするなかで、今回の提携が韓国の決済市場にどのような動きをもたらすかは非常に興味深い。カカオが中国への窓口を開く一方で、メッセージアプリLINE を運営する韓国最大のポータルNaver は、AIやマッピング、自動運転分野のテクノロジーを強化し、欧州や北米市場に乗り込むことを宣言している。
中国アントの進出は、テクノロジーへの対応が遅い韓国の大手銀行の尻に火をつける効果も与えるかもしれない。