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2017.02.24

抜け道好きな日本が生みだす「危機不感症の若者たち」の行く末

コロンビア大学・日本経済経営研究所所長 ヒュー・パトリック(右)、コロンビア大学教授 伊藤隆敏(左)


パトリック:やはり少子高齢化の問題は重大だと思います。医療や年金など、高齢者を支える社会保障の仕組みが成り立たなくなりつつある。いかに対策を見出していくのか、大変な難題です。

伊藤:今の年金世代には資産がありますが、若い世代ほど厳しいでしょうね。(団塊世代が皆75歳以上となる)2025年には日本の高齢化がピークを迎えます。10年後には恐ろしいことになっているかもしれない。

パトリック:あなたは、富裕層にまで国民年金を支給すべきだと思いますか?

伊藤:年金と収入はリンクさせて考えるべきだと思います。ただし、資産は別物です。

パトリック:日本に増税が必要なことは明らかです。問題は、高齢者を支えるための増税が若者に受け入れられるのかどうか。

伊藤:最も公平なやり方は消費税増税です。富裕層はより消費しますから、そのぶん税金を支払うことになる。労働人口が減っているなかで、所得税は上げるべきではありません。上の世代が残したツケを若者に負担させるのは不公平です。そう考えると、消費税増税しかない。

パトリック:国としては莫大な借金を抱えていても、個人レベルでは豊かな日本人は多くいます。銀行預金から不動産まで、あらゆる資産に課税したらどうですか。

伊藤:日本の相続税はすでに高率です。資産への課税を重くすると、富裕層が日本を離れてしまう可能性がある。すでにシンガポールに資産を移すような人も出てきています。

パトリック:せいぜい数千人規模でしょう。詳細は私も把握していませんが、何も数百万人の日本人が脱出しているわけではない。大半の富裕層は日本に残りますよ。

伊藤:しかし、資産課税によって不動産価格の暴落などが起きかねない。結果、日本人の富は失われることになります。

パトリック:不動産に限らず、すべての資産に課税するんです。消費税増税の問題は、富裕層よりも貧しい人々が打撃を受けるということです。もっと富裕層に負担をさせるべきですよ。

伊藤:消費税増税をしても調整は可能です。まずは消費税を上げる。そのうえで、低所得層には税を還付するというやり方です。

アジアは「人民元圏」になりかねない

パトリック:中国経済の減速も世界経済に大きな影響を及ぼしました。今や世界の主要国となった中国が、今後いかに経済の舵取りをしていくのか注目です。

伊藤:16年の出来事のなかで、とりわけ「中国」は、日本を含め世界にとって大きな課題だと思います。中国は野望を持った国です。南シナ海などでは領土的な野心もむき出しにしている。こうした中国の野望に対し、世界は適切に対処する必要があります。

中国経済に関しては、長らくバブル崩壊が懸念されています。仮にそうなった場合、迅速に回復できるのかどうか。

パトリック:たとえバブルが崩壊しても、長期的には中国は台頭し続けることでしょう。1人当たりGDP(国民総生産)も、先進諸国と比べまだまだ低い。

伊藤:中国の台頭ということでは、人民元の影響力も拡大しています。9月には、国際通貨基金(IMF)が人民元を米ドル、ユーロ、円、英ポンドに続き、第5の通貨としてSDR(特別引出権)通貨バスケットに採用しました。象徴的な意味しかないと言う人もいますが、私はそれ以上の影響があると考えています。

少なくともアジアでは、人民元は準備通貨としての地位を確立した。ユーロが支配するヨーロッパと同様、アジアが人民元圏となりかねません。そうなればイギリスとEUの関係と同様、日本がアジアの端に位置する小さな島国という地位に甘んじることになる。
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編集=出井康博 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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