1913年に創業し、レーシングカーを生産していたが、戦後まもなく中興の祖であるデイビッド・ブラウン氏の手に渡ると、独自の哲学に則った妥協ないクルマ作りで定評を得た。だが、創業から103年間での累計生産台数はわずか8万台。近年、現代的なクルマ作りにアップデートされて年産7,500台を数えるとはいえ、希少であること極まりない。
3年前に100周年を迎えたことを機に、次世代のアストンマーティンへと向かう第一歩となる「DB11」が発表された。時を同じくして、CEOに就任したアンディ・パーマー氏にインタビューがかなった。
「企業哲学をひと言で言えば、“Love of Beauty”です。“Love”を端的に表す日本語がないのですが、あえて訳せば『心の奥底から湧く何か』であり、情熱や愛に近いでしょう。アストンマーティンの真骨頂は“Beautiful”であること。『速さ』、『スタイリング』、『インテリア』といったそれぞれの分野における”美しさ”を追求し、最新技術や生産ラインにすら美しさが宿るブランドです」
パーマー氏が日本語に詳しいのは、前職で日産で副社長兼チーフ・プランニング・オフィサーとして辣腕を振るった経歴の持ち主だからだ。日本のモノ作りを取り入れる方針も打ち出している。
「細部に気を配ってモノを作り、それを評価する顧客がいて、その期待にまた応えるといった日本流の品質管理とモノ作りを、アストンマーティンの歴史を紡ぐために活かしたいと考えています」
今後、クロスオーバーの「DBX」やEVの「DBE」と展開を広げる計画だが、「“ハンドルのないアストンマーティン”は決して作りません」とパーマー氏は宣言する。現実からのエスケープとして、最善の美しさを提供する―そんな自動車メーカーでありたいからこそ、技術が進んでもあえて自らの手で操ることを重視するのだ。
アンディ・パーマー◎アストンマーティン社長兼CEO生産技術・修士号を修め、経営博士号を取得。37年にわたって自動車分野でつとめた経験を持ち、日産自動車にてチーフ・プランニング・オフィサーを含む重責を歴任。2014年より、現職。