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2017.02.17

グラミー賞を支える16億円の「即席スタジオ」と舞台裏の奮闘

photo by Christopher Polk / gettyimages


バッキングトラックを一括するプロトゥールスミキサーのパブロ・ムンギアによると、数年前まではアーティストが各自の音源と機材を持ち込み、演奏直前に再生していたため、PCの起動が遅く演奏のタイミングが狂うといった惨事が頻発していた。「アーティストごとに異なるシステムを取り入れていた頃はややこしかった」と、ムンギアは言う。

ムンギアのトラックのそばには、1本5,000ドルはするシュア社やゼンハイザー社のワイヤレスマイクが60〜70個並んだテーブルもあった。アーティストによってマイクの好みは様々で、ビヨンセはゴールドの手持ちマイクがお気に入りだそうだ。

地下には他に、オペレーション全体を統括するスタッフのオフィスもある。オーディオコーディネーターのマイケル・アボットは、40人の音響プロフェッショナルと15〜20人のローカルスタッフからなるチームのリーダーだ。アボットは1984年からグラミー賞授賞式を担当しており、プロダクションの規模もトラブル防止対策も年々進化しているという。

もっとも、万全の体制を整えていても予期せぬトラブルは避けられない。昨年のアデルのステージでは、ピアノを持ち上げた際に内部でマイクが落下し、大きなノイズが発生。それをスタッフが修復しようと試みた際に、全体の音が数秒途切れるハプニングがあった。「失敗から学ぶしかない。我々ができることには限度がある」とアボットは言う。演奏の多くが、授賞式用に特別にアレンジされたものであることを考えれば、3時間半の中継で他に大きな問題が起こっていないのは奇跡だとも言える。

「アーティストがレコーディングスタジオで何週間もかけて行う作業を、我々は数時間で行っている」と、授賞式のオーディオミックスアドバイザーのグレン・ローベッキは話す。この高性能な即席スタジオは、授賞式の当日中に撤収される。そして再び、来年の会場に出現するはずだ。

編集=海田恭子

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