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2017.02.22

月面レースに挑む3人の経営者が、その先に見る宇宙ビジネスとは

提供:HAKUTO


袴田はKDDIの田中孝司社長にパートナーを依頼するとき、こう説明した。

「リンドバーグが飛行機で大西洋横断を成し遂げたのも賞金レースです」

今、田中が思うのも、レースの先に見える未来の産業だ。田中はこう言う。

「飛行機は戦前からあったけど、誰もが乗るようになったのは70年代の終わりくらいでしょ? 宇宙だって、そうだと思います。需要期が来れば身近になり、そしてシステム産業だからその周辺にどっといろんなものが生まれると思います。アポロの宇宙飛行が断熱材や防水性の高い衣類を生んだように、想像しえないものが生まれる。それが楽しみなんです」

暗い宇宙空間で静かに地球を公転する月を目指し、人類はどれだけの進化と熱狂を生むことができるだろうか。


2016年8月に発表したHAKUTOフライトモデル。月への打ち上げには1kg当たり約1億2,000万円かかる。
HAKUTOは7kgから4kgへの軽量化に成功。記者発表前、軽量化の説明をわかりやすく話すようKDDIの田中は袴田に助言した。

–HAKUTOとは?
月面探査の国際賞金レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加するのがHAKUTOである。東北大学の吉田和哉教授の研究成果を技術ベースに、袴田が代表を務める「HAKUTO」が月面を走破する超小型ローバー(探査車)を開発している。HAKUTOがユニークなのは、さまざまなバックグラウンドをもった若者たちが集まっている点である。

袴田が起業したispaceはエンジニアだけでなく、デザイナー、Webプログラマー、弁護士などが揃い、「プロボノ」と呼ばれるボランティアメンバーたちが支える。ローバーは低コストと小型化のため、日常的に民間で使われている量産機器の民生部品を使って開発している。また、世界から参加する16チームの多くが、月面までは「相乗り方式」。HAKUTOはアメリカのチーム「アストロボティック」のロケットに同乗する。


田中孝司◎1957年、大阪府出身。81年、京都大学大学院工学研究科電子工学第2専攻修了、国際電信電話(KDD)に入社。85年、スタンフォード大学大学院電子工学専攻修了。2003年KDDIの執行役員(ソリューション事業本部ソリューション商品開発本部長)に就任。10年12月にKDDIの社長に。「au経済圏」を打ち出し、通信分野だけにとどまらず、生損保、住宅ローンなど金融、日用品、食品などを取り扱い、「非通信分野」のサービスを拡大している。

山口一郎◎1980年、北海道小樽市生まれ。実家が喫茶店を営んでいたことから、邦楽洋楽を問わずに音楽が流れる環境で育った。2005年にサカナクションを結成。バンド名は、「魚」と「アクション」を掛け合わせた造語である。07年のデビュー以来、シングル全12曲がトップテン入り。また、映画、CM、ドラマで楽曲が使用されることも多い。山口の新会社「NF」の文字は、サカナクション同名アルバムであり、NightFishingの頭文字でもある。

袴田武史◎1979年生まれ。名古屋大学を経て、米ジョージア工科大学大学院で修士号(Aerospace Engineering)を取得。宇宙産業に特化したコンサルタントになることを目標に、欧州に本社のあるコンサルに入社。2009年に友人の結婚式で隣り合わせた人物が、月面レースの欧州チーム関係者だったことから、協力を要請された。それを機に、東北大学の吉田和哉教授と知遇を得る。10年に宇宙ベンチャーを起業し、HAKUTOは結成された。

文=河鐘基、藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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