ラシェリン・マルティースは、ファンフィクション出身のロマンス小説作家だ。初出版作品はハリー・ポッターの豆知識本で、コミュニティー情報サイト「クレイグズリスト」での作家募集の広告に応募して契約を獲得。現在小説を共作するエリン・マクレイとは、米ミュージカルドラマ『グリー』のファンフィクションコミュニティーを通じて出会った。
マルティースは、ファンタジー作家エレン・カシュナーの作品を題材にした作品集『Tremontaine』にも参加している。カシュナーはマルティースが自身のファンフィク作品を執筆していたのを知っていたのだという。「彼女から電話がかかってきて、『あなたが今やっていることをお金にしたくないか』と聞かれたんです」(マルティース)。同様の経験を持つファンフィク作家は他にも100人以上いるという。
マルチジャンルの官能小説を手掛けるセシリア・タンは、作家のキャリアがスランプに陥った2000年代半ばに、物書きの訓練としてファンフィクションの執筆を始めた。多くのファンフィク作家と同様、ハリー・ポッターの世界を題材に作品を書き続け、コミュニティーからフィードバックと得て、自信をつけていった。
タンは、執筆したハリポタのファンフィク作品を読んだエージェントの助言をきっかけにロマンス小説の世界に足を踏み入れ、現在までに14作品を執筆している。ハリポタ作品の経験を生かして執筆した『Magic University(魔法大学)』シリーズは、ホグワーツを大学に置き換え、勉強よりもセックスライフにいそしむLGBTの学生たちを描いた作品だ。
タンは出版社と交渉し、自身のファンによる二次創作作品を集めた短編集も発表している。自分の作品を題材にしたファンフィクションが生まれることを予期し、それを自分の利益へとつなげたのだ。タンはこう説明する。「どうせ起きることなのだから、私たちは準備をしておかなければいけない、と言ったんです。作家たちの一部は後にプロに転向しましたよ」