ファンジン作家の多くが、やがてプロに転向した。SF小説『ヴォルコシガン・サガ』シリーズで知られるロイス・マクマスター・ビジョルドは、60年代後半に多数のスター・トレック同人作品を執筆していた。また、スター・トレックの小説を10作品以上執筆しているSF/ファンタジー作家のダイアン・デュエインも、もとはファンフィクション作家だった。
スター・トレック以外にも数多くの事例がある。SF小説『ダーコーヴァ年代記』シリーズのマリオン・ジマー・ブラッドリーは、自身の作品を使った二次創作を容認していた上、うち幾つかを公式作品として出版もした。また、英SFドラマ『ドクター・フー』の元ディレクターで現在は『シャーロック』のディレクターを務めるスティーブン・モファットも、ファンフィクション作家出身だ。
ハリポタが生んだ新たなファンフィク文化
ファンフィクションの創作・出版は決して目新しい現象ではないものの、ファンフィク界は90年代後半、インターネットの爆発的普及により新たな発信の場を得て、飛躍的な発展を遂げた。
J・K・ローリングの人気児童小説『ハリー・ポッター』シリーズは、現代のファンフィクション文化を形作った作品とされている。最終章の出版から9年がたった今もファンフィクション作品の題材として一番人気を誇っており、「Fanfiction.net」上でのハリポタ関連作品数は75万9,000作品と、2位のトワイライト(21万9,000作品)に大差をつけている。
ハリポタのファンからプロに転向した最も有名な作家は、カサンドラ・クレアだ。2000~06年に発表した『ドラコ・トリロジー』は絶大な人気を獲得したが、その数年後にE・L・ジェイムズが『フィフティ・シェイズ』で生み出したようなゴールドラッシュは起きなかった。サイモン&シュスター傘下の出版社ギャラリー・ブックスの編集者で、ファンフィク作品の出版に携わってきたアダム・ウィルソンは、ジェイムズの成功の理由として自費出版業界の発展と作品が持つ「タブー性」があったと分析している。
クレアをめぐっては、過去に盗作やネット上での嫌がらせ行為の疑惑も浮上している。2001年には盗作を理由に「Fanfiction.net」の利用を禁じられ、2007年の書籍初出版の直前にはネット上から自身のファンフィク作品をすべて削除した。後にプロ作家として執筆した『シャドウハンター』シリーズはベストセラーとなり、映画化やドラマ化もされたが、昨年2月には『ダーク・ハンター』シリーズの作家シェリリン・ケニヨンが盗作被害を訴えて訴訟を起している。
原作者もファンフィク作家を応援
賛否の的となっているジェイムズやクレアの他にも、ファンフィクション界からプロの世界へと羽ばたき、騒動を起こすことなく順調にキャリアを積み上げている作家は数多い。