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すでに存在する「西森型」の量子コンピュータは、いわゆる「最適化問題」に特化したものですが、最適化問題には、最短経路を見つけることや巨大分子の構造を調べることなどを含め、かなり広範な事象が含まれます。そしてAIにとって根幹となる「機械学習」(AIが自ら学習すること)やディープラーニングも最適化問題の一つなのです。

量子コンピュータによってAIが格段に発達した時代の予測としてよく言われるのは、仕事の構造が大きく変わるだろうということです。野村総研によれば、10年から20年後には日本の仕事の49%はAIやロボットで代替可能になる。さらに、米国労働省によれば、現在の小学生の65%は将来、いまは存在していない仕事に就く。現在すでに多くの仕事が機械で代替されている現状を見れば、その数字にも頷けます。

言語の障壁がない世界へ?

一方、AIが社会に与える最も大きいインパクトの一つとして僕が考えているのは、翻訳技術の飛躍的向上です。

Google翻訳など、現在普及している機械翻訳が出す訳には少なからず違和感があります。それは機械が人間と同じことをやっていないからです。現在の機械翻訳は、たとえば英語という記号を日本語という記号に直接置き換えています。しかし、人間はそうはやっていないんです。英語と日本語は1対1対応になっていないし、文化の違いといったことも絡んできます。

人間はどうやってその壁を超えているかといえば、英語を聞いた時にまずその情景を思い浮かべる。そしてその情景を日本語にする。つまり、言葉と言葉の間に、情景など何らかの「パターン」をかませているんです。

それは、映像だったり音だったり、感覚であったりもするのだけれど、いずれにしても何かのパターンを経由することで一度脱記号化する。それをもう一度記号に戻すという作業を行うことで言語間を自然につなぎ、こなれた翻訳を作り出しているのです。

それと同じことを機械にやらせるには、ディープラーニングなどの手法で学習させていくことになります。その技術は現在でもかなり進んでいますが、そこに量子コンピュータが導入されれば、AIはいずれ、人間と同等の「本当の翻訳」能力を手にするのではないかと考えられます。

するといつか、誰もが話した言葉を瞬時に他言語に変換できるようになるかもしれません。そうなれば、同時通訳の人の仕事がなくなるといったことはすぐに想像できますが、その影響は、もっと社会全体に及ぶ巨大なものになるはずです。言語の障壁がなくなるというのは、おそらく想像以上に大きなことです。聖書で言えばバベルの塔以前に戻るという話であり、国境がなくなるぐらいのインパクトがあるといえるかもしれません。

仕事の構造が変化して仕事を失ってしまったとしても、言語の障壁がないのであれば国や場所を問わずに新たな仕事を探せます。特に日本語というマイナー言語を使う私たちの選択肢はものすごく広がる。その一方、英語を母語とする人たちの優位性は大幅に減るはずです。そうした変化は、国の力関係を含めて世界を大きく変えるだろうと想像できます。

AIが「自意識」を持ったら

そのように、量子コンピュータやAIは今後、いまでは想像もつかない時代を到来させるかもしれません。が、そういう時代になったらなったで、その先にはまた、その時代には想像できない未来が待っているものなのか。そう考えてみることがあります。つまり、技術の発展はいつまでも続くのか、どこかで頭打ちになって止まるのか、という問題です。

以前、マイクロソフトのAIの統括者にそんな問いを投げかけると、その方はこう言いました。「AIが無限に賢くなるのか、限界があるのかはわからない」。技術の発展の限界も、やはり誰にもわからないのでしょう。

ただし、科学の歴史を振り返るとヒントがあります。じつは100年ぐらい前、多くの科学者が「科学の発展はもう終わった」と考えていたことがあったのです。それはつまり、ニュートン力学と電磁気学によって、世の中の物理現象のすべてが計算可能なように見えたからです。

近藤雄生=インタビュー、構成

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