カリフォルニア州やマサチューセッツ州、ニューヨーク以外にハイテク企業が集まる地域があり、それら各地にある関連企業と従業員たちが米国のテクノロジー産業全体に占める割合はそれぞれ81%、73%に上ると聞けば、驚く人もいるかもしれない。
ペンシルベニア州フィラデルフィア、ミズーリ州セントルイス、アリゾナ州スコッツデール、コロラド州デンバーなどには、業務ソフトウェアの開発などを手掛ける企業が多数ある。これらの大半は、創業者が経営する売上高5,000万ドル(約56億円)以下の企業だ。ドイツの輸出主導経済を支えている「ミッテルシュタンド(Mittelstand)」と呼ばれる中小企業とよく似ている。いずれも一つの分野や製品に特化した、家族経営が多くを占める製造業者だ。
これらの地域にある各社の成功、顧客関係、資金需要の基準は、シリコンバレーのハイテク企業とは明らかに異なる。一方でドイツの「ミッテルシュタンド」のように、各社は自らの属する産業に特有の問題の解決に取り組んでいる。大抵は創業者が過去に実際にその問題に直面しており、改善が必要な点についての深い理解に基づき、ソフトウェアの開発を行っている。
さらに、これら各社はそれぞれに特徴的なビジネスモデルと価値観に基づいて事業を行う。破壊的技術よりも、既存のプロセスの向上とシステムの強化に力を入れている企業もある。これらは、ユニットエコノミクスよりも企業としての利益を重視する。米国の「ミッテルシュタンド」は、採算性の確保と売上高の安定的な増加が15年以上にわたって続くことを、「成功」と考えるのだ。
さらに、こうした成功はニッチ商品への特化と顧客との一対一の関係の確立、クチコミ・マーケティングの実効性、従業員の高い職場定着率が前提となる。