5日夜に行われた米プロフットボールNFLの年間王座決定戦「スーパーボウル」で独自動車メーカーのアウディが流したこのCMは、男女の賃金格差解消に取り組む同社の姿勢をアピールすることが目的だった。ところが、CMは一部の人々に感動を与えた一方で、より多くの人々の不快感を買い、アウディ自身の社内にある男女格差に注目を集めることになってしまった。
ユーチューブで公開されたCMは、これまで約5万人から「高評価」を受けている一方で、それよりも多い約6万人から「低評価」を受けている。アウディが犯した失敗は、企業が自らのアイデンティティーと、論争の的となっている社会問題とを掛け合わせることの危険性を浮き彫りにした。
ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のジュリー・ヘネシー教授(マーケティング)は、否定的な反響の一因として、アウディがCMを通じ「(社会)問題を取り上げることで自社の利益につなげようとしている」と受け止められたことを指摘している。
このCMを見て気になるのは、アウディ自身の上層部における女性の比率だ。同社の取締役6人には女性が一人も含まれていない。また監査役会での女性の割合はわずか16%と、フォーチュン500社の平均である20%に届かず、BMWの30%にも遠く及ばない現状だ。
これに対しアウディ米国法人の広報は、自社の取り組みとして、昨年ホワイトハウスの呼び掛けに応じて男女賃金格差解消の実現を誓約したことや、新卒アナリスト採用枠の少なくとも半数を女性に割り当てていることを挙げている。さらにローレン・アンジェロ副社長(マーケティング担当)は、個人の業績や経験、勤務年数などを基に給与分析を行った結果、「同一職務に対する同一賃金」が実現できているとの結論に達したと述べている。
だが広報は、同社がここ2年間で社員の性別に応じた給与調整を実施したか否かについてはコメントを拒否した。一方で、セールスフォース・ドットコムやエクセロンといった企業は、こうした措置の実施状況を公表し続けている。
CMは完全な失敗作というわけではなかった。フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOOはフェイスブックにCMを絶賛するコメントを投稿している。
だがこのCMは、アウディ自身の経営陣における大きな男女格差に注目を集めたことで、逆効果につながった。ヘネシー教授はこう語る。「感情の面から言えば、ネガティブな表現が持つ力は、同社が暗に提示しているメッセージよりもずっと強力。このCMは結果的に、大きな傷を生んでしまった」