小山薫堂「半世紀ぶりの水陸両用機」で瀬戸内周遊の旅

水陸両用機「せとうちSEAPLANES」

放送作家・小山薫堂が、日本では半世紀ぶりとなる水陸両用機で“東洋のエーゲ海”と呼ばれる瀬戸内の遊覧飛行を体験。隠れ家リゾートホテル「ベラビスタスパ&マリーナ 尾道」の魅力も合わせて紹介する。

11月17日、広島県尾道市の東の端に位置する浦崎町に僕はいた。天気は良好。午前10時20分の便に乗るため、ホテルを9時に出発する。送迎のバンで海までの坂道を降りていくと、約5分でオノミチフローティングポートに到着した。

僕がこれから乗るのは2016年8月10日、「せとうちSEAPLANES」が運航を開始したばかりの水陸両用機、いわゆる水上飛行機である。海や湖に離着水できる水上飛行機は、1960年代半ばまでは伊丹空港から南紀白浜や新居浜(にいはま)までを飛ぶ定期便が運航されていた。だが、陸上空港が整備されてきたため、その後はずっと途絶えていたという。
 
水上飛行機に乗った経験はカナダのバンクーバーで一度だけある。地を這うように湖を渡る水上飛行機からの景色は、まるで鳥の目線を獲得したかのようだった。湖の多いカナダでは、水上飛行機はメジャーな移動手段で、観光客や旅行客だけでなく、通勤や出張で使う人もいると聞く。場所やニーズに応じてさまざまな使い方ができる、魅力ある乗り物なのだ。だから、日本国内で半世紀ぶりに水上飛行機が登場すると聞いて、心が躍った。しかも、瀬戸内の美しい島々を鳥の目線で遊覧飛行できるだなんて。

案内された建物に入ると、半円の連なる、ちょっと宇宙船のような雰囲気の短い廊下の奥にチェックインカウンターがあった。ここでは飛行機に持ち込む手荷物とともに、自身の体重もチェックされる。飛行機のバランスに影響するためで、この数字をもとに搭乗者すべての座席が決められるのだという。

カウンターの左手には、マリーナを一望できる搭乗者専用ラウンジがある。マリーナというのは、昨晩僕が宿泊した「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道」所有のベラビスタマリーナのことだ。クルーザーやヨットを停泊してホテル滞在を楽しんだり、ボート免許を取得することができる。

また夏にはジェットスキーに海釣り、ランチクルーズやサンセットクルーズ、無人島エグゼクティブBBQなど、さまざまなマリンアクティビティも体験できる。これからはプーケットやランカウイまで出かけなくても、「多島美(たとうび)」や「東洋のエーゲ海」などと呼ばれる瀬戸内海の景観のもとで、至福の時間を過ごせるというわけだ。

ラウンジは落ち着きのあるアンティーク家具をゆったりと配置した、心地のよい空間になっている。ソフトドリンク、ワイン、シャンパン、ご当地スナックなどが常備され、搭乗客は時間が来るまで思い思いの時間をそこで過ごす。僕はラムネを飲んだ。


搭乗20分前、いよいよ保安検査室へと移動。安全上の注意点を聞いてから検査室を出ると、目の前の桟橋に水上飛行機が佇んでいた。グレーに青いラインが美しい機体はぴかぴかに磨かれ、太陽の光にきらめいている。指定された座席に乗り込めば、革製のシートの座面は広くて座り心地がよい。4点式のシートベルトのつけ方は操縦士がしっかりと教えてくれた。なんだかディズニーランドのアトラクションにでも乗るようで、期待が高まる。
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構成=堀香織、写真=山本マオ

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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