醤油や奈良漬が「世界一のショコラ」になるまで/小山 進

コンクールに出品したチョコレート4作品。左から「醤油ヌーヴォー」「鳳凰単叢蜜桃香&マンゴー」「コーヒーゼリー&ライチ」「奈良漬プラリネ」


3つ目も2層で、薄いライチの層の上にコーヒーチェリーという組み合わせです。この数年、いろいろなコーヒー×カカオを試しているのですが、これにはコーヒーの豆ではなく、それを包んでいる果肉(チェリー)を使いました。

高級なことでも有名なパナマゲイシャ種の豆で試作をしていたときに、米国のコーヒー会社で今や知らない人はいないナインティ・プラス社の代表が、ある日本人のコーヒーのプロシェッショナルを介して、天日干ししたコーヒーチェリーを送ってくれたんです。すごいタイミングでした。そして、豆とチェリー、どちらも試してみたらチェリーのほうが断然味に深みがあり、美味しかった。これは太陽の熱という自然が生み出す光と温度でなければ生まれない味なんです。

また、ライチの層に使っているのが、ペルーのチャンチャマイヨという地域で採れるカカオから生まれたチョコレート。ミルクチョコでありながら香りも酸味も非常に華やかでライチとの相性は抜群です。

最後のチョコレート(写真下)には、みりんを使った京都の“奈良漬”が入っています。高圧プレスにかけてサクサクのフレーク状にし、ヘーゼルナッツのプラリネに混ぜ込みました。実は奈良漬って南国系のフルーツに合うんです。今回は隠し味に、パッションフルーツとマンゴーを加えました。

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そしてこれもまた、好きな料理から着想を得たものです。京都にステファン・パンテルというフランスの料理人がいて、彼の店の名物が「フォアグラの奈良漬巻」。そこに南国フルーツのソースがかかっていて、僕の大好物なんです。そこで、フォアグラの脂の代わりにチョコレートという油分を使って面白い表現ができるのでは、と考えました。奈良漬の味が分かるかどうかより、新しい味と食感を楽しんでほしいですね。

こうしてできた4作品ですが、チョコレートは作った後にも広がりがあります。このコンセプトやストーリーを伝えたら、同じ“表現者”としてシンガーソングライターの佐藤竹善さんが曲を作ってくれました。過去には、キングコングの西野さんが絵本に描いてくれたこともあります。

余談を挟みましたが、僕は、煮切り醤油や奈良漬のように海外の人が知らない「和」の食材を使って作るチョコレートに可能性を感じています。前から知っている「和」の素材でも、ふとした瞬間にチョコレートにしたいという欲求が出てきます。それを通じて、日本の素晴らしさを広めていきたい。

たぶん、奈良漬のチョコレートを作ったのは僕が初めてのはず(笑)。世界が知らない「和」は、日本の日常生活の中にまだまだたくさんありますよ。

編集=筒井智子 写真=岩沢蘭

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