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2017.02.01

投資と経営のプロ、モハメド・エラリアンが読む2017年

イラストレーション=山崎正夫


FRB(連邦準備制度理事会)が16年内に利上げに踏み切ったとしても、世界経済への影響が大きくなるとは考えていません。もっとずっと重要なのは、アメリカ以外の4カ国・地域の中央銀行─日本銀行、欧州中央銀行(ECB)、中国人民銀行、イングランド銀行─がどう反応するかという点です。

今後数カ月間、世界経済に最も大きな影響を与える中銀はどこかと問われれば、この4行だと私は答えます。このうち日本、EU、イギリスの3中銀は、FRBのように健全な景気循環のある経済に恵まれていませんし、中国の場合、非常にトリッキーな経済の転換に対応する必要に迫られている。金融政策に注目が集まるのはFRBより、この中銀4行でしょう。FRBの金融政策も世界の金融市場には影響を及ぼすでしょうが、世界経済に巨大なインパクトをもたらすことまではないはずです。

EU・中国・日本、本当のポイントはこれだ

EUやイギリス、日本では他の先進経済圏と同様、通貨政策に過度に依存してきています。これは中央銀行への依存が過度だったということであり、そのために中銀の金融政策の有効性は低下していて、この低下が最も著しいのが日本です。

実のところ日本では、日銀の非常にアクティブな諸政策にもかかわらず、期待に反した結果がいろいろ生まれており、特に外国為替市場ではそうした現象が目立ちます。これは日銀の政策が有効性を失い始めており、ひょっとすると逆効果さえ生んでいる可能性をも示唆しています。

日本でなされるべきは総合的な政策転換。日銀への過度な依存から、もっと包括的な政策対応への切り替えです。最も重要なのはアベノミクスの第三の矢、成長志向の経済改革の実行です。

一方、中国経済を見るときに非常に重要なのは中国が置かれている文脈です。中国は今、経済成長の戦略を転換すべき「中所得国の移行(middle-income transition)」という最も難しい時期にさしかかっています。過去60年、多くの途上国がこの段階で失敗し、「中所得国の罠」と呼ばれる低迷に陥っていきました。中所得国の移行に成功したのは4カ国だけで、そのいずれも中国ほど巨大でも複雑でもなかった。ブラジルのような大規模経済圏も何度か挑戦していますが、まだ成功していません。

しかも中国は、世界経済が弱っている中で、その難しい移行に取り組んでいます。さらに国内の一部の分野でバブルが発生していたという問題も抱えている。

このような点を考え合わせると、中国の成長が不安定であることは驚くに値しませんが、それは中国がハードランディングするという意味ではありません。中国は成長率5〜6%という線でソフトランディングし、過剰債務の問題に対処する時間はあるという見通しの方が適切でしょう。

ソフトランディングのために最も重要な政策は、輸出と外国投資への強い依存から段階的に脱却を続け、国内消費への依存へとシフトしていくことと、債務危機を避けるために国内の大規模な金融資産を活用できるようにすることです。

ヨーロッパの金融機関も3つの面で課題に直面しています。

第一に低金利やマイナス金利。古典的な仲介金融業務では収益を生み出すことが難しくなっています。第二は、成長率の高いエネルギー企業への融資を増やしたことなどが裏目に出て、ポートフォリオの一部が傷んでいること。第三に、CoCo債(*3)などのハイブリッド証券を発行してきて、その株式への転換において銀行が大きなストレスを受けること。第二、第三の課題が生まれた背景にはヨーロッパの経済全般の成長率が今なお低すぎることがあります。

ただ、事態はリーマン・ショックが起きた2008年当時とは違います。今回、ヨーロッパの銀行が対応を余儀なくされているのは金融システムの問題ではありません。課題を抱えている銀行も、問題に対処するための術を持っています。
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インタビュー=谷本有香 翻訳・編集=岡田浩之

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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