NYメトロポリタン美術館で経験、エクササイズが導く芸術との融合

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「眠らない街」として知られるニューヨークで目覚めることには、何か素晴らしいことがある。同じように、差し込む朝の光がいくつもの彫像を照らす中、来館者が訪れる前の美術館と共に一日の始まりを迎えることにも、何か素晴らしいことがある──。

ニューヨークの5番街にあるメトロポリタン美術館では今年1月と2月の合計16日間、「ミュージアム・ワークアウト」を開催している。音声ガイドに従って館内を回り、約3.2㎞を休むことなく移動しながらダンスを基本とした有酸素運動を行う45分間のプログラムだ。

終日利用可能な入館チケットと合わせた料金は35ドル(約4,000円)で、16日分のチケットはすでに数か月前に完売している。

同美術館が所蔵する代表的な作品が並ぶフロアを移動しながら運動するこのプログラムは、コンテンポラリー・ダンスのモニカ・ビル・バーンズ&カンパニーが作家でイラストレーターのマリア・カルマンと共に、2年半をかけて作り上げたものだ。

誰もいない館内で芸術を「体感」

プログラムは開館前の午前8時30分から始まる。スパンコールの付いたドレスをまとい、ニューバランスのグレーのスニーカーを履いたカンパニーの芸術監督、バーンズと共同監督のアナ・バスが、ディスコロックのサウンドトラックのリズムに合わせ、ジャザサイズのような動きを通じて参加者15人を導く。

一団は14の展示作品を鑑賞しながら、エクササイズを続ける。ペルセウスの裸像のあるスペースを走り、展示されたエジプトのスフィンクスの周囲を回り、「アメリカンウィング」でストレッチ。45分間、一度も動きを止めることはない。

ダンスを基本にしたものではあるが、一連の動きは初心者でも無理なく付いていける、自然な動きの繰り返しだ。参加者たちは自然に、周囲の環境に自分自身を溶け込ませていくことができる。

エクササイズの新しいトレンドから目が離せない現代だが、バーンズはこのプログラムについて、「新しいエクササイズの方法を考案したわけではない。芸術鑑賞の新たな方法を生み出したのだ」と説明する。

激しい動きを必要とするこのエクササイズは汗が噴き出るほどの運動量だが、目指しているのは体を通じた新たな芸術との関わり方を知ることだ。多くの人は、芸術はゆっくりと落ち着いて接し、味わい、鑑賞するものだと考えている。だが、運動をしながら素早く館内を移動することで、新しい鑑賞眼を育てることができるという。まだ来館者がいない広くがらんとした館内で、まるで自分だけのために用意されたもののように、作品はより特別な、神聖なものに感じられる。

カルマンは参加者向けの音声ガイドのナレーションを担当している。その声は動きを指示するだけでなく、芸術に関する自身の考えや、倫理観を示すような格言を紹介したりしている。参加者らはその声によってカルマンとも、その場にいる自分以外の16人とも、親密さを深めることができるのだ。

一度も止まることなく続けたエクササイズの後、参加者たちはゴール地点の冷たい石の床の上で横になる。体温は上がり、注意力が高まった状態だ。そして、美術館はそろそろ来館者を迎える時刻だ。ニューヨーカーが慣れ親しんでいる騒音と人ごみと隣り合った場所で、空間と静寂に手で触れることができそうな、めったに出会えることのない瞬間だ。

編集 = 木内涼子

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