同社のビル・フォード会長とマーク・フィールズCEOは社員に向けた電子メールで、イスラム圏7か国の市民の米国入国を90日間禁止したトランプの大統領令について、以下のように批判した。
「全ての人に対する敬意の念はフォードの中心的価値観であり、私たちは同社が国内外で持つ豊かな多様性を誇りに思っている。これは、私たちがこの政策や、わが社の企業としての価値観に反するその他のいかなる政策も支持しない理由だ。今のところ、フォードの従業員がこの政策によって直接的な影響を受けたという情報は把握していない。私たちは今後も、職場における尊敬と寛容という価値観の推進を通じ、自社従業員の幸福の確保に取り組んでいく」
この声明には心を打つ点が2つある。まず、フォードが本社を置くミシガン州デトロイト近郊のディアボーンは、中東出身のアラブ人が多く住む多様性にあふれた地域であるという点だ。住民の3分の1がアラブ系とされ、多くはフォードで働いている。
2つ目は、声明がビル・フォードとフィールズの連名で出された点だ。フィールズがユダヤ人である一方、ビル・フォードの曽祖父ヘンリー・フォードは米史上最も悪名高い反ユダヤ主義者の一人とされている。この2人の関係は、寛容と多様性を重んじるフォードの企業文化を反映しているのだ。
全米自動車労働組合(UAW)のデニス・ウィリアムズ委員長もまた、トランプの大統領令に反対する以下の声明を出した。
「この国は移民の国であり、私たちが今大切にしている権利を求めて移民とその他の人々が団結して闘うことがなかったならば、合衆国は存在しなかっただろう。私たちは、この国を偉大にした価値観を守った上で、国家の安全を保障しなければいけない。UAWは、いかなる種類の差別にも反対し、人の善悪を宗教や出身国に基づき判断するようないかなる政策も非難する」
各地の国際空港で大混乱を巻き起こしたトランプの大統領令については、テスラモーターズなど多くの米テクノロジー企業が批判的な声明を出しているが、大手自動車メーカーでこの件に関してコメントしたのはフォードが初めてだ。
米自動車メーカー各社とトランプ政権はこれまで、一触即発の関係にあった。トランプは、「米国第一」というスローガンの下、米国の雇用を増やすためとして、メキシコなど国外での事業からの撤退を要求。フォードは先月、メキシコで16億ドルを投じて進めていた小型車工場建設計画を撤回した。フォードはこの理由を小型車の需要減少にあると説明しているが、トランプの圧力に屈したものとして広く受け止められている。
ゼネラル・モーターズ(GM)とフィアット・クライスラーもまた、トランプからの圧力を受け、米国での雇用拡大を約束した。トランプは先週、これら3社の経営陣と会談し、経済問題について協議している。