クレディ・スイス賞を選ぶ上で、重視したのは、1. 社会に大きなインパクトを与えるようなイノベーションをもたらすか、2. ヤングアントレプレナーであるか、3. メイド・イン・ジャパンの技術やアイデアをベースにしたビジネスであるか、4. ローカルで開発され、かつ、インターナショナルで通用するビジネスモデルであるか、の4点です。
アクセルスペースの中村友哉CEOは、
1. 低コストな「超小型人工衛星」の開発により、「手の届かなかった夢の宇宙を、ビジネスの場に変えること」を目指している。同時に、衛星が毎日撮影したデータを分析し、顧客の欲しい情報を提供するサービス「AxelGlobe」で、“宇宙の情報産業”のパイオニアを志している。
2. 東京大学博士課程終了後、在籍した専攻での特任研究員を経て、29歳の若さで同社を創業。現在37歳にして、優れたビジネスセンスを持つ起業家である。
3. 東京大学と東京工業大学のチームによる、日本発の研究成果をベースにした事業である。
4. 中東の石油パイプラインの監視、東南アジアの森林火災や洪水のモニターなど、グローバルな需要を見込んでいる。
これら4つの条件すべてを高水準で満たしていたことが、今回の選出理由です。
アクセルスペースが優れているのは、ビジネスモデルが技術力の高さを生かした「モノづくり」に留まらない点です。今後は、2017年に地球観測用超小型衛星3機を打ち上げ、18年より「地球のビッグデータ」を提供する「Axel Globe」のサービス開始を計画しています。
「地球全体を毎日撮影する」という膨大なデータには、自動運転への応用など、まだ想像すらもできないような無数の“潜在的需要”があるはずです。そのため、世界中のあらゆる分野の企業に「ビジネスの種」を提供できる同事業の、ビジネスとしてのポテンシャルは計り知れません。そんな事業への大いなる期待感によって、アクセルスペースは事業会社やベンチャーキャピタルから総額約19億円の資金調達を実現しています。
どんなに優れた研究成果でも、事業化するためには卓越したビジネスセンスが欠かせません。中村CEOは、人工衛星から分析可能な画像の大きさを、技術力の追求により「蟻サイズ」に到達させることを諦めて、あえて「車サイズ」に留めたといいます。この意思決定の潔さからも、アントレプレナーとしての才能の片鱗がうかがえます。
選定においてはどの候補者も若く、かつイノベーティブなアイデアを持っていた中、最終的なジャッジの決め手はアクセルスペースのビジネスモデル、中村CEOの経営手腕に宇宙を想起させる「∞(無限)の可能性」を感じたことでした。今後もクレディ・スイスは、中村CEOのような、社会に変革をもたらす若きアントレプレナーを応援する「アントレプレナーズバンク」であり続けたいと思っています。
中村友哉/アクセルスペース
設立 : 2008年8月 従業員数 : 18名 資本金 : 19億5,699万円(資本準備金を含む)
事業内容 : 超小型人工衛星の設計・製造・打ち上げまで手掛けるスタートアップ。一辺27cm、重さ10kgの手で持てるほどの超小型衛星が安価で手軽な「宇宙からのビッグデータ」を可能にする。一個あたりの製造コストは大型衛星の1/100。新たに調達した資金で自社衛星3機を打ち上げる予定だ。中村友哉CEOは東京大学入学後に手づくり人工衛星に出合い、博士課程修了まで超小型衛星の開発に没頭。同大学での特任研究員を経て、2008年に同社を創業。