トランプが目標に掲げているのは、製造業の雇用を国内に取り戻すことだ。だが、NAFTAからの離脱や輸入車に35%の関税をかけることについて米国内の団体が行った調査結果によれば、それらは全くの逆効果をもたらすと予想される。
ミシガン州アナーバーにある非営利団体、自動車研究センター(CAR)によれば、「NAFTAからの離脱や北米での自動車部品取引への制限は、米国の自動車メーカーにとっては製造コストの上昇、投資家にとっては利益の減少につながり、消費者にとっては選択肢の減少、サプライヤーを含めた米国の自動車業界にとっては、競争力の低下につながる」
米国の有力シンクタンク、ブルッキングス研究所の報告書は、さらに単刀直入だ。グローバル経済・開発担当の特別研究員は、「トランプは保護主義こそが米国人労働者を守るものだと確信しているが、それは間違いだ」と明言する。
報告書はいずれも、米国による保護主義的な行動は貿易戦争を招く可能性があると指摘している。そして、価格上昇と米国の消費者の購買力低下を招き、国民に損害をもたらすという。その他、需要の減少と、企業が必要とする従業員の減少も見込まれる。
「相互依存」崩せば自らにも痛み
「メキシコから雇用を取り戻す」──トランプが自動車業界について掲げる目標は、ごく単純なことのように聞こえる。
だが、CARが報告書で述べているとおり、米国とカナダ、メキシコの自動車業界は完全な相互依存の関係にある。各国の国境をまたいで取り引きされる自動車部品の一部は、かつての8倍近くの量に上っている。NAFTA発足前にはわずか5%だったメキシコからの輸入車に使用される米国製部品の割合は、現在では40%となっている。