ファッション史上において、就任式の日のジャクリーンのドレスが重要な鍵を握ったということに異論を唱える人はいないだろう。その点では、「安全な決断」だ。だが、メラニアはすでに、歴代の大統領夫人と自らの違いをどのように打ち出していくかという点において(2016年の共和党全国党大会で行った演説での盗用疑惑など)、すでに問題を抱えているのだ。
「価値観」を体現したミシェル
一方、ミシェルは2009年の夫の大統領就任式に、キューバ系米国人のデザイナー、イザベル トレドのドレスとコートを選んだ。公人として、身に付ける服によって自らが重要と考える問題を訴えていくという方針を、初めて明確にしたのがこの日の装いだった。夫の在任期間中ミシェルは一貫して、新進の、異なる文化を背景に持つデザイナーの服を積極的に身に着けた。そのことが宣伝となり、利益となるようなデザイナーたちを選んできたのだ。
ミシェルにとって、装いは単に見栄えの良さに関するものではなかった。グローバリズム、インターセクショナリティ(さまざまな形態の差別は関連し合い、交差していることを示す「同時交差性」)など、自分にとって身近な問題に対する考え方を表す手段だった。
正装で出席する行事にはオートクチュールも取り入れたが、日常的にはJクルーやターゲットなど、量販店で販売されている服も着た。それによって米国民は、ミシェルが基本的には2人の子を持つ普通の母親なのだということを再認識してきたのだ。
ドレスが表す「回帰」
ミシェルはファッションの時代精神を体現してきた。メラニアがそれと同じことをできるとは想像し難い。メラニアはオスカー女優のように美しいが、私たちを鼓舞しない。
就任式当日の服装は、古典的なスタイル、形式への回帰を表していた。未来ではなく、過去を表現していたのだ。ファッションアイコンとは、大きな話題や流行を生むものだ。ファッション評論家のバネッサ・フリードマンは米紙ニューヨーク・タイムズの記事で、(アイコンは)「ファッションの方向性を大きく動かし、影響を与えるものだ」と書いている。