ビジネス

2017.01.25

成功事例から探る、大企業xスタートアップ連携の未来

世界でも指折りのCVCでは、連携加速による企業価値向上を仕組み化している。(左から)セールスフォース・ドットコム Salesforce Ventures・浅田慎二日本代表、トレタ・中村仁社長、チームスピリット・荻島浩史社長。


想像以上を生む“深いつながり”

「想像以上のシナジーが生まれそうだ。今後の展開を考えると、ワクワクする」

東京急行電鉄の「東急アクセラレートプログラム」運営統括を務める、加藤由将はそう話す。15年11月に開催した第一回プログラムの参加企業だった、中古マンションのリノベーションを手がける「リノべる」と翌3月に業務資本提携。当初は、東急沿線の住宅市場活性化を目的とした一棟まるごとリノベーションマンションといったリノべるの事業分野での協業を想定していた。しかし現在では、その協業範囲は広がり、オフィスや商業施設、民泊施設といった想定していなかった分野でも進んでいるという。3月の提携から11月までのわずか8カ月ですでに十数件が進行中だ。

経営課題でもある沿線の価値向上や既存事業のビジネスモデルの高度化について、大企業・東急電鉄がアセットと資金を提供し、スタートアップ・リノべるがノウハウとコンテンツを担い、事業共創が実現した。まさに絵に描いたような「Win-Win」の関係だ。「中高年層にもよく知られた、大企業ブランドの『信頼』を得られたことで、採用面の安心材料にもなった」(リノべる・山下智弘代表取締役)

「表面的なただのビジネス上の利害関係だけでなく、企業同士の思想や文化といった深い部分で一致したことが好循環を生んだ」(東急電鉄都市創造本部戦略事業部・東浦亮典副事業部長)

東急電鉄がリノべると描く未来は沿線にとどまらない。同社の大プロジェクト「渋谷の再開発」でも、期待しているという。そして、大規模再開発エリア以外についても、これまでの風景を残しながら不動産価値の向上を図るなかで、リノべるへの期待は大きい。

ファーストペンギンたちが支える

「三菱東京UFJ銀行をはじめグループ各社にダイレクトにアクセスできることの効果はとても大きい。スタートアップにとって時間が最も重要な経営資源。その使い方がプログラムに参加するか、しないかで最も違う点だ」

そう指摘するのは、イスラエルに本社を置くゼロビルバンクの堀口純一CEOだ。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が開催した「MUFG Fintechアクセラレータ」の第1期参加企業のひとつだ。

なぜ、保守的なイメージが先行するメガバンクの中で、そのようなことができたのだろうか。「何よりもスタートアップが実を取れるように心がけた」と話すのは、同プログラムの責任者でMUFGデジタルイノベーション推進部の藤井達人シニアアナリスト。先行する英バークレイズ・グループの取り組みを視察し、大企業の論理ではなく、いかにスタートアップの目線で運営できるかに注力したという。

同プログラムの第一回は16年4月から4カ月間掛けて開催された。最大の特徴は、デモデイ時点ですでにスタートアップとグループ各社との協業が発表された点だ。ゼノデータラボとカブドットコム証券は個人投資家向け決算分析レポート自動作成システムにおいて、アルパカとじぶん銀行がAI(人工知能)活用外貨預金サポートツールにおいて、ゼロビルバンクとMUFGは地域型仮想通貨において、それぞれ共同開発を明らかにした。

「自分が起業家だったこともあり、最初に協業の手を上げるファーストペンギンがいないと、という思いだった。まずは我々がパワーユーザーになりましょう。そしたら、グループ会社も我々に続くかもしれない」と話すのは、同プログラムでメンターを務める、カブドットコム証券の齋藤正勝社長。今後もこうした連携に向けた動きは続けていくという。

アクセラレータープログラムは、一般的にはコストが高く、連携するスタートアップの数も限られるため、リスク性が高いと言われている。しかし、世界の上位100社を見ると24社が同プログラムを運営しており、その必要性の高さがうかがえる。日本ではKDDIの「KDDI∞Labo(ムゲンラボ)」などが知られるが、世界を見ると、先進的なOrange、telefonicaといった電気通信企業はもとより、マイクロソフトやコカ・コーラも現在、世界中でアクセラレータープログラムを展開、グローバル・ネットワークを構築し、新たな“実り”を得る体制を整えている。
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文=土橋克寿、写真=松井康一郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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