ビジネス

2017.01.25

成功事例から探る、大企業xスタートアップ連携の未来

世界でも指折りのCVCでは、連携加速による企業価値向上を仕組み化している。(左から)セールスフォース・ドットコム Salesforce Ventures・浅田慎二日本代表、トレタ・中村仁社長、チームスピリット・荻島浩史社長。

世界的潮流で日本でも注目を集める大企業とスタートアップの連携。グローバル企業だけでなく日本でもその果実は出始めている。その成功事例から新たな連携の姿を模索する。


「『100社中68社』『100社中32社』─。この数字の差こそ、世界的に見ると大企業のスタートアップ連携が企業業績と相関関係にあることを表している」

米有力ベンチャーキャピタル(VC)・500スタートアップスジャパン・マネージングパートナーの澤山陽平が指し示した差は、「フォーブス・グローバル2000」に基づく世界上場企業トップ500社の上位100社(1〜100位)と下位100社(401〜500位)をスタートアップとの連携という観点から比較した数値である。

「とはいえ、ただスタートアップと連携をはじめればいいという簡単なことではない。企業の目的を明確にしながら、8種類ある打ち手の中から手段を選び、いかに“仕組み化”するか、が重要になる」

500スタートアップスとINSEADが作成した「#500コーポレーションズ」によると、大企業のスタートアップとの連携には、8つの明確な手法がある。(1)イベント、(2)サポートサービス、(3)スタートアップ・プログラム、(4)コワーキング・スペース、(5)アクセラレーター&インキュベーター、(6)スピンオフ、(7)投資、(8)M&A(合併・買収)─という手法である。企業の目的に合わせて、手法の推奨度が異なるという(表)。そして、いかに体系的に、継続的に連携できるか、が鍵を握るという。

一方、スタートアップ側も同様だ。ウォール・ストリート・ジャーナルの「ビリオンダラー・スタートアップ・クラブ」によると、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)のうち61.7%が1社以上の大企業から出資を受けている。スタートアップ側の成長加速の“術”でもあるのだ。

“好循環”は国境を超える

大企業のスタートアップ連携において、世界的に最も利用されているのが、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)だ。上位100社の中で連携している68社のうち、73.5%が運営している。日本でも今年に入り、ソニーや三井不動産をはじめ、多くの企業がCVCを設立した。

こうしたCVCの投資額は、世界的に見てもスタートアップへの投資全体の36%を占める(2016年第1四半期、CBインサイト調査)。13年同期の19%から急上昇し、スタートアップシーンへの影響度を高めていることがわかる。

そんな中、世界的に存在感を発揮しているCVCはどのような運営をしているのだろうか。CBインサイトが毎年発表する「世界CVCランキング」で、グーグル、コムキャスト、インテルに次ぐ、4位のセールスフォース・ドットコムでは、自分たちの“武器”のひとつとしてスタートアップへの投資を位置づける。なぜなら、自らのビジネス領域の拡大につながるからだ。同社はこれまで世界13ヵ国で、BoXやEvernote、Twilioなど160件のスタートアップに対して投資を行ってきた。

「アメリカの持つ方法論を日本でも活用している。製品の連携、商圏の拡大、知見の共有といった点が特徴。我々の既存製品が作り出したエコシステムに入っていただき、継続的に受注確率を高めていく」(セールスフォース・ドットコム Salesforce Ventures 日本代表 浅田慎二)
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文=土橋克寿、写真=松井康一郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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