スラッシュはこうして「世界一クールな起業イベント」になった

マリアンヌ・ヴィックラ/Marianne Vikkula(24) スラッシュのCEO。2012年よりスラッシュにボランティアとして関わり、ファイナンスやパートナーシップ、セールス担当などを経て、16年夏より現職。アアルト大学の現役学生で、インダストリアル・エンジニアリング(経営工学)を専攻する。


――イベントで利益は出ているのですか?

年によります。15年は初めてわずかに黒字になりましたが、いつも厳しいです。チケットの25%程度はイベントが始まる1週間前になって売れます。でも私たちはもうイベントの諸費用を先払いしているので、なんとか回収しないといけない。収益の予想を立てるのはとても難しいですね。

――政府からの援助はあるのでしょうか?

以前、政府による3年間の支援プログラムがありました。イベントの費用ではなく、運営組織のキャッシュバランスに充てる資金を負担してもらいました。

スラッシュのイベント予算はすでに1,000万ユーロ(約12億円)規模に達しています。資金がゼロなのに1,000万ユーロのイベントを開くなんてクレイジーですよね。だから政府のプログラムで銀行のキャッシュバランスを増やしたんです。何かあったとき、破綻しないように。

――なぜ毎年、こんなに寒い冬の時期にイベントを開催するのでしょうか?

私たちはスラッシュだから――、ほかとは「違う」からです。雪が降っていて、寒くて、暗くて、地面にはSlush(じゅくじゅくの雪)がある。そういう経験が、ほかのあらゆるスタートアップのイベントとは違う。1年で最悪の時期にイベントを開催するなんて、誰もメリットのあることだとは思いません。でも創設者たちがこのイベントを始めたとき、ほかの人たちとは違うことをやろうと思ったんです。

――真冬に開催されることに対して、参加者たちからの不満はないのですか?

もちろん、夏なら夏でみんな楽しんでくれていると思います。でも夏に開催していたら、スラッシュのクレイジーな経験の多くは失われてしまう。このタイミングは好きですし、ほかの時期に移動するメリットは何も感じません。

――TwitterやFoursquareは「SXSW」(アメリカ南部のオースティンで毎年春に開かれるイベント)への参加がきっかけで一躍有名になったとされています。スラッシュで飛躍のきっかけをつかんだスタートアップがあれば教えてください。

はい、毎回多くのスタートアップが投資家から出資を得たり、メディアに取り上げられたり、いろんなチャンスを手にしています。

たとえば11年のスラッシュのピッチングコンテストで優勝した「Yousician」(楽器練習アプリ)や、スラッシュの元CEO、ミキ・クースィが創業した「Wolt」(フードデリバリー)、アアルトESの元代表クリスト・オバスカが創業した「Smartly」(フェイスブック広告の最適化サービス)などがあります。「M-Files」(企業内文書管理)は、15年のスラッシュで出会った投資家たちから3,300万ユーロ(約40億円)の出資を得て話題になりました。

でも私たちにとっての「成功」は、出資額の大きさではありません。次につながる出会いやチャンスの方を重視しています。スラッシュのイベントで偶然知り合った人と意気投合して会社を作って、今年参加してくるというスタートアップもいます。そういうストーリーが私たちをインスパイアしてくれるんです。



Slush/スラッシュ
毎年初冬にフィンランドのヘルシンキで開催される北欧最大のテクノロジーカンファレンス。2016年は120ヵ国以上から約1万7,000人以上の起業家、投資家、報道関係者らが参加。今年3月29~30日に東京ビッグサイトで第3回「Slush Tokyo」も開催予定。

*「フォーブス ジャパン」2017年3月号では、フィンランドのスタートアップ躍進の謎に迫るロングルポ「『起業立国』フィンランドの素顔」を掲載します。1月25日(水)発売。

Interview and Photographs by Yasushi Masutani

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