「人は今、ロボットを見ると『すごい』と思うか、『怖い』と思うか、のどちらかしかありません。でも、それでは一緒に働けないじゃないですか」
そう語りはじめた彼はきっぱりとこう断言した。「その2つ以外の感情を抱く、新しい概念のロボットが必要なんです」
人の横で動作して作業を支援したりする「協働ロボット(Collaborative Robots)」。一言でいうと人間とロボットの垣根を取り払った画期的な技術だ。2013年、ロボットと作業員の事故防止のための柵の設置が義務づけられた労働安全衛生法の規制が、出力80W以下のロボットに限り撤廃。協働の門戸が開かれると、16年は「協働ロボット元年」とも言われ、名だたるメーカーが参入し競争も本格化。その中で、産業技術総合研究所(産総研)からスピンアウトした起業家が注目を集めている。ピッキング用の協働ロボット「CORO」を開発、販売するライフロボティクスの尹祐根(ゆん・うぐん)社長だ。
「COROの動きを見て、多くの人は『なんか地味だね』『何がすごいの』と言います。でも、そうした”安心感”がとても大事なんです。そう見えるためには、やはり”肘”をなくさないといけないんです」
COROは多関節の腕1本の小型ロボットだ。腕は最大で865mm伸び、6個の関節を協調動作させて各種の作業をこなす。腕の先には部品や商品をつまむための指や真空吸着器などのアプリケーションが備えられる。
そして他社に例を見ないCOROの最大の特徴が、「肘がないこと」。これまでの肘を曲げるロボットでは、動作範囲が広くなり、安全確保のために広いスペースを確保しなければならず、挙動が複雑になるので思わぬ事故も起きる。それに対してCOROは、肘で腕を曲げる代わりに腕を伸縮させるので、狭いスペースでも作業員と安全に作業ができる。本人曰く、世界で最もシンプルな動作をする協働ロボットだ。それを実現させるのが「トランスパンダーテクノロジー」と呼ぶ独自技術だ。
「結構単純な機構なんですよ。まさに『コロンブスの卵』。一度見たら、『そりゃそうでしょ』と思うでしょう。でも、その『そりゃそうでしょ』が今まで誰もできなかった」