営業開始からわずか数ヵ月 トヨタ自動車、吉野家が導入
なぜ、尹はできたのかー。それは彼のキャリアをさかのぼるとわかるかもしれない。
尹は1972年兵庫県伊丹市に生まれ、小学校高学年の頃はガンダムブームで自身も夢中になった。掃除機など動くものならなんでも分解するほどののめり込みようで、「ガンダムのようなロボットを自分で作りたい」と、九州大学工学部に入学。しかし成績がふるわず、学部時代は熱力学、修士時代は材料力学とロボットからは離れていたが、博士課程では念願のロボット研究の道に進む。
「もう楽しくてしかたなくて」と言う彼は、土曜日や日曜日、祝日だけでなく、正月も、ずっと大学にこもっていた。
「ロボット研究は機構系、制御系、電気系とあるのですが、僕は自分でロボットを一から作って動かしたいので、全部学びたい」と博士課程の学生ながら、学部生の授業に潜り込み、一緒に基礎から学んだ。1年半が経過した際に「助手にならないか」と誘われるという”天才”。そんな彼がひたすらこだわったものがある。それは「肘」だ。一度は助手の職に就くものの、「すべての時間を研究に」と産総研に転職、原子力発電所のメンテナンスロボットや福祉介護向けのロボットアームなどの研究に携わる。
「人類が文明を発達させてきた理由は、すべて腕や手が器用だからだと思っている。人の器用さをロボットで実現できたら、すごく世の中がよくなるのではないかー」
その思いに端を発し、尹は07年、産総研発の企業としてライフロボティクスを創業した。産総研時代の業績である「肘がない」というアイデアと技術の実用化を目指して改良を続ける狙いだった。
「今の目標は、ロボットを家電のようにすること。UFOキャッチャーのように直感的に扱える商品になれば、誰でも使えるようになりますから」
COROは現在、外食分野の吉野家、食品製造分野のロイヤル、自動車分野のトヨタ自動車、電子機器・デバイス分野のオムロン、化粧品分野、物流分野など多岐にわたる分野で導入が進んでいる。16年1月の営業開始から、数カ月にもかかわらず、数多くの大手企業での導入が決まった。
人手不足解消、生産性向上の切り札として、協働ロボット市場は25年に1兆5,000億円規模になると予測される。その機会を見据えながらも、尹の野望はさらに遠くにある。「人とロボットが協働作業を行うことで、世界中から『人手不足』という言葉をなくしたい。つまり、誰もが嫌がる単純作業、身体を痛める繰り返し作業を人の代わりに行い、人が人らしい仕事を行う環境を用意し、付加価値の高いものづくりを目指せるようにする。協働ロボットが、どんな分野で何ができるのかをさらに探求し、そこで活躍できるロボットを提供し続けたい」
20年近く、ロボットアーム研究・開発経験を持つ尹の挑戦は、本人曰く「まだはじまったばかり」だ。