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2017.01.19

急増するリノベーション物件の落とし穴[日本の不動産最前線 第9回]

Photo by Africa Studio / Shutterstock, Inc.

首都圏の中古マンション市場が好調だ。

東日本不動産流通機構によれば、2017年12月の首都圏中古マンション成約件数は前年比2ケタ増のプラス17.7%。成約平米単価は前年比9.5%上昇、成約価格は前年比9.0%上昇し、ともに2013年1月から48か月連続で前年同月を上回った。

昨年後半から恒常的に契約率70%を割り込むようになってしまった新築マンション市場の不調をよそに、中古マンション市場が好調なのは、とりもなおさず新築マンション価格が上がりすぎたことが最も大きな要因だろう。また昨今の新築マンション分譲立地は都心部や郊外でも一等立地で、かつ供給戸数も昨年は3万8,000戸と、ピーク時の9万6,365戸(2000年)の40%程度にとどまっていることも大きい。

一方で中古戸建て市場は、まだまだ伸び悩んでいる。12月の首都圏中古戸建成約件数は前年比で 3.2%増加、成約価格は前年比で1.4%上昇し3か月連続で前年同月を上回ったものの、長期的な下落トレンドからはまだ脱却できていない。

こうした中、国はさらなる中古住宅流通促進を目論み、40歳未満の人が中古住宅を購入する際、最大65万円が保持される「住宅ストック循環支援事業」をスタートさせた。内訳は、ホームインスペクション(住宅診断)と省エネリフォームに50万円、耐震改修15万円。

平成29年6月30日までに契約し、12月31日までに住宅の引き渡しを受けることが要件だが、国の予算250億円に達し次第、「住宅ストック循環支援制度」は終了する。利用できる人はぜひ検討してみよう。

こうした文脈の中、昨今は多数の事業者がリフォーム・リノベーション事業に新規参入するようになったが、経験不足からか、現場では問題も散見される。最も多い問題の一つは「水漏れ」だ。さくら事務所のホームインスペクション(住宅診断)実例から典型的な事例をご紹介する。



この写真はリノベーション済み中古戸建の床下。古い水道配管が新しいものに交換されていたが、通水試験を行うと、このように水漏れしている。原因は単純に接続部の締め忘れ。買主に見せる前に事業者側であらかじめチェックしておけばわかっていたはずだが、時間がとれず試験を行っていないという。

このような、わずかずつの水漏れは一般に発見が遅れ、気づいたときには床下が水浸しになっているのはもちろん、木部土台にカビやシロアリ、腐食などの症状が出ていることが多い。防ぐためには、買主が、引き渡し前に必ずひと通りのチェックを行うことだ。

次の事例は、経験豊富な事業者の実例。リノベーション済みの中古マンションで水漏れが発生した現場に住宅診断士が訪れると、40年前の古い水道配管がそのまま使用されていた。



この物件には2年間の瑕疵(かし)保証がついているため、事業者負担で全面的に補修することとなったが、水漏れの範囲は非常に広範囲に及んでおり、内部造作の大部分を解体して水道配管をやり直すことに。買主は一時引っ越しを余儀なくされ、生活にも精神的にも大きな負担を強いられた。

なぜこのようなことが起きるのか? 実はこの中古マンションは、いわゆる「買取再販物件」。つまり、リノベーション事業者が中古マンションを買取り、リノベーション後に再販売するといったものだ。

昨今はこうした事業者が乱立し、熾烈な買取競争が行われている。買取価格の目安は市場相場価格の70%程度だが、ここで配管の交換費用を見積もってしまうと買取競争に負ける可能性がある。2年間だけ配管がもってくれさえすれば、その間は瑕疵保証がある、といった計算だ。ということは、3年目以降にこうした古い配管が故障した場合には買主負担ということになる。

リノベーション済み物件の購入を検討する際には、隠れて見えない上下水道の配管についてどのような扱いをしたのか、事業者には必ず確認したいところだ。

【連載】日本の不動産最前線 過去記事はこちら

文=長嶋 修

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