Lilyの“成功”にはメディアも大きく手を貸していた。ウォール・ストリート・ジャーナルは「2016年の人々の暮らしを再定義するデバイス」と喧伝し、フォーブスも2015年の「30アンダー30」リストにLilyの創業者2名を選んでいた。
Lilyは当初、2016年2月に製品を出荷するとしていたが、その後「2016年の夏」に延期すると発表。顧客宛てのEメールでは、飛行ソフトの調整やハードウェアの改善といった理由を述べていたが、内部関係者は「遅延には明確な理由など無かった」と述べている。
11月にLilyはフォーブス編集部にメールを送り、デモを見せたいと連絡を寄越したが、直前になってキャンセルしていた。その後、今年に入りLilyは事業停止を宣言した。サンフランシスコ地方検事局はその翌日に同社を告発した。
Lilyの広報担当者は今回の提訴は事業停止とは、何の関わりもないと述べている。担当者はまた共同創業者らは訴訟が進んでいることを聞かされておらず、事業の停止は数週間前から検討中だったとも述べた。
関係筋からは「Lily側は告訴が進めてられていることを数か月前から知っていた」との声も聞かれる。数週間前に事業停止を決定しながら、何故彼らがツイッターで、「12月20日には製品の発送を開始する」と述べていたのかは理解に苦しむところだ。
顧客からは「この件は特別珍しいものではない」との声も聞かれる。フォーブスの取材に応えたJim Fawcetteという人物は「彼らは2015年の初めに金を受け取っておきながら、数か月も前からサポートのメールの返事を寄越さなくなっていた」と述べた。
落胆しているのは顧客たちだけではない。Lilyは1,500万ドルに及ぶ資金を主にスパークキャピタルから調達しているほか、シリコンバレー銀行から400万ドルを借り入れている。裁判資料でLilyは予約の堅調さを材料に、借り入れを行なったとされている。
資金繰りに苦しんだLilyは昨年、新たに1,500万ドルの資金調達を画策中だったとも伝えられる。ビジネスインサイダーの報道では、同社はスナップチャットの運営会社であるスナップ社にもコンタクトをとり、買収提案を行なったが断られたという。スナップの担当者はコメントを避けた。
また、別の関係者はLilyがDJIに接近を図ったと証言している。2社は昨年の第4四半期に会談したが合意には達しなかった。
今回のLilyの騒動はこのところ過熱気味のクラウドファンディングに対する消費者の信頼を裏切るものとも捉えられる。Lily側は1月18日に出廷を求められているが、CEOのBalaresqueは現在、家族とともにフランスに滞在中だ。
「実在しない製品をデモ動画で宣伝したなら、会社を閉じるべきだ。それは詐欺と呼ばれる行ないであり、そんな連中は非難されて当然だ」と、シリコンバレーのVC関係者は怒りを込めてつぶやいた。