ビジネス

2017.01.18

新たなファンをどーんと増やす、「脱ガチ思考」

illustration by Kenji Oguro


2012年からオーナーとなったカードゲーム会社・ブシロードの木谷高明社長は、プロレスの事業は音楽業界のアーティストビジネスと一緒であり、「プロレスのリング上のライブとは古臭いのではなく、最先端のキャラクターコンテンツなのだ」と語っている。音楽ライブとプロレスを同じライブと考えるならば、それはマニアじゃなくても楽しめるライブであり、勝っても負けても感動を呼ぶショービジネスなのだというとらえ方なのだ。

ポイントは、顧客との接点を多く設計したことだ。若い世代はほとんどプロレスを知らないという。そこで、自社の広告だけでなく人気選手をCMやテレビ番組などに積極的に出演させて、一部のコアなプロレスファンだけでなく、身近なキャラクターとして多くの人に認知してもらうように仕掛けた。

このふたつの事例から見えてくるメッセージは、「ガチな野球やプロレスのマニアじゃなくていい。気軽に、軽いノリで楽しんでいただいてもOK!」という「脱ガチ思考」であることだ。

私は10年来「さかなクン」とお付き合いさせていただいている。東京海洋大学名誉博士・客員准教授で“お魚”のガチな専門家だが、子どもから大人まで、魚への関心の濃淡問わず、すべての人にわかりやすく楽しくその素晴らしさを伝えている。その幅の広さにはいつも感心する。

彼もコアな魚マニアだけを相手にしているわけではない。人気の秘密もそこにある。これ、ほかのジャンルでもかなり応用が効きそうだ。入口の敷居を下げたり、気軽な接点や本質+αの楽しみを用意する。

では、釣りはどうだろう。私の周囲では、「先日、アジ釣りに行ったんです。自分で釣った魚って本当においしくって、感激! ただ、お魚をさばくのがちょっと大変で」という若い女子がいる。“おいしくって、感激!”に加えて、“さばくのがちょっと大変で”に、ヒントがありそうだ。

さらに、釣りにおいて勝ち負けを言い換えるならば、「釣れるか、釣れないか」だろう。自然相手なので釣れる保証はない。ならば、「釣れなくても楽しい時間」を提供することかもしれない。例えば、「手ぶらでどうぞ、レンタル釣り具あり。初めての方には丁寧に指導します」という釣り船屋さん。そこに居酒屋がコラボをして、「ご自分でさばかなくて、釣った魚の持ち込みOK! 各種料理に仕上げてご提供。釣れなかったときのために地魚ご用意してます。笑」と打ち出せば、面白い。楽しみ方にルールはないのだ。

「脱ガチ思考」。これこそ、プロスポーツやレジャーのみならず、ビジネス全般においても視野を広げてくれるのではないだろか。



工藤英二◎電通総研Bチーム・釣り担当特任リサーチャー。広告からイベント、出版や新規事業支援までさまざまなプロデュース業務を行う。最近、魚にかかわる仕事が増加中。個人活動ではHP「世界を釣ろう」を運営。

電通総研Bチーム◎電通内でひっそりと活動を始めていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー40人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。現在50のプロジェクトを支援している。平均年齢約35歳。

文=工藤英二

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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