一方、僕に対しては「浮かれている」「文章がチャライ」といったご意見が…。も、申し訳ありません。確かに浮かれていたかもしれない。年も明けたことですし、今年は少しだけ気を引き締めて参りたいと思います。
さて、今回はプロフェッショナルアプリの“意外な使われ方”についてお話ししようと思います。現在、YouTubeにはこのアプリで作った動画が何万本もアップされています。音楽の著作権の問題で動画を掲載できるプラットフォームに制限があるため、正確な数は把握できないのですが、アプリのリリースから1年が経った今でも、毎日数千~1万本程度の動画が作られているようです。
では、どういった場面でこのアプリが使われているのでしょうか? おそらく多くの場合は、忘年会や新年会での出し物などでネタ的に使われているのかなと想像します。そんな中で、僕が「へぇ、なるほどな!」と思った事例がありました。それは、姫路市のある中学校での使われ方。名付けて「隣のあの子は、なんのプロ?」です。
これは中学3年生を受け持つ先生のアイデアなのですが、まず33人のクラスをくじ引きで二人一組のペアにわけます。そして、ペアになった相手が何のプロかを考え、アプリで動画を作るという極めてシンプルなものです。でも、いざやるとなるとこれがとっても難しくて、深いんですね。
アプリで動画を作る上で絶対に必要な要素は、「肩書き」と「流儀」です。しかし、中学生にはいわゆる肩書きが存在しません。「ディレクター」とか「経営者」とか言えないわけです。次に流儀ですが、そんなもの考えたことがないという生徒がほとんど。僕自身もそうですが、13、4歳の頃は大体ここには書けないようなことしか考えていませんでしたから、突然「流儀」と言われてもフリーズするのは当然です。
案の定、自分の長所や取り柄が見つからない、と完全に煮詰まった男子生徒がでてきました。でも、ペアになった女子生徒が粘り強く話を聞いていく中で、彼のノートにたくさんの落書きを発見するんです。で、一言。「なにこれ、面白いやんっ!」。その瞬間、彼の肩書きが決まりました。“らくがきのプロ”です。
さらに、なぜ彼が多くの落書きをするのか聞いていくと、絵を描いている時が一番自分の感情を表現できて、その絵を見て人が喜んでくれるのが嬉しいのだということが分かっていきます。こうした対話を通じて、“らくがきのプロ”としての彼の流儀が見つかりました。「自分の好きなものを描き続ける」。
この授業の様子はNHK大阪放送局の番組で知ったのですが、「先生すげーな!」と思いました。アプリを使う前には1人もいなかったプロフェッショナルが、あっという間に33人も生まれたのです。「らくがきのプロ」「逆立ちのプロ」「ムードメーカー」、水飲み場のシンクや蛇口を掃除するのがとってもうまい「磨き職人」というプロまで現れました。どの生徒さんの目もキラキラしていて、最高の動画ばかりでした。
この番組を見た同志社女子大学・現代こども学科の上田信行教授は、「プロフェッショナル・コンフィデンス」という概念が新たに生まれたといいます。プロフェッショナル・コンフィデンスとは何か? 上田さんは“小さなp”と“大きなP”という表現を使って説明してくれました。
小さなpは“らくがきのプロ”のような、まだ世間的には知られていなくても自分だけは気づいているプロフェッショナルな側面を指します。一方、大きなPはたとえば宮崎駿さんやイチローさんのような、番組に出てくるいわゆる「プロフェッショナル」のことです。