「組織戦の戦い方は、ラグビーが教えてくれた」ローソン 玉塚元一会長

ローソン 代表取締役会長CEO 玉塚元一 (写真=若原瑞昌)


海外の名門クラブに参加 ラグビーがビジネスでも助けに

ラグビーはその後も玉塚に恩恵を与え続ける。大学卒業後に入社した旭硝子で、念願の海外勤務が叶い、シンガポールへと赴任したのは27歳のときだ。現地の部下を数人従えた化学品事業のリーダーとして、物流センターの買収や新工場設立などに奔走していた。

あるとき、白人の青年たちによるラグビーの練習風景に遭遇。「参加していいか」と尋ね、ともに汗を流すと、週末の試合に誘われた。試合では玉塚曰く「若かったし、走れた。頭一つ抜き出ていて、キャプテンに気に入られた」という。なんとそのチームは1852年創設のシンガポール・クリケット・クラブという名門クラブで、玉塚は推薦を受けてクラブメンバーとなった。土曜の試合後はメンバーとバーでひたすら飲む。なまりのさまざまな彼らの会話に食らいつくうち、英語がみるみる上達し、生涯の親友もできた。

また、海外の交渉で厳しい状況におかれた際、ランチタイムに「日本人のわりにはでかいな。何かやっていたのか?」と訊かれ、ラグビーだと答えたら、一気に流れが変わって交渉がまとまったことも少なくない。「ラグビーは格闘技に近いタフなスポーツなので、『あんなのやってたなんて、お前も馬鹿だな』と互いに認め合うわけです(笑)。本当に、助けられました」。

精神と肉体をマネジメントする技術は企業経営にも必須

そんな玉塚が率いるローソンは2013年、中期事業戦略として、これまでの健康への取り組みやノウハウを活かし、「マチのほっとステーション」から「マチの健康ステーション」へと舵を切った。具体的にはナチュラルローソンや医薬品取り扱い店舗を拡大、グリーンスムージーなどのヘルシーフードを開発した。

当然、社員の健康にも注力しており、福利厚生でジムが利用できるのはもちろん、健康診断を受けない社員の賞与を15%減額するというユニークな制度も導入している(現在、受診率は100%)。

それ以前の09年からは職場の活性化を目的とした社員向けのスポーツ大会を毎年開催。本社と支部を合わせた9拠点で部署ごとにチームに分かれて予選リーグを行い、勝ち残ってきたチームで決勝リーグを行う。今年はソフトボールで、ピッチャー玉塚が指揮する平均年齢最高齢の役員主体のチームがなんと6戦6勝し、決勝大会に進出した。

玉塚自身はというと、いまもトレーニングを怠らない。週5回、早朝のジムで40分のジョギング、ウェイトトレーニング、サウナというメニューをこなす。国内外の出張先では朝、街を走る。

「街を走ると、街の規模や人々の生活がわかるんです」

街を走り、人を知ることが、小売業というビジネスにも生きる。

「筋トレや有酸素運動で代謝を適切に上げたり、煮詰まったときに30分走って、ストレスをリリースさせたりするのが大事ですよね。やはり、自分の体をマネージできない人に、部下や社員や会社はマネージできない。精神と肉体のセルフマネジメント力というのが、経営者には重要なんじゃないでしょうか」

経営者部門1位の言葉には、さすがに長年の実績とその重みがあった。

たまつか・げんいち◎1962年、東京都生まれ。85年、慶應義塾大学卒業後、旭硝子へ入社。2002年、ファーストリテイリング社長に。05年、リヴァンプを共同設立、ロッテリアの再建などに関わる。11年にローソン副社長に就任。社長を経て、16年より現職。

文=堀 香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事