ハーバードの教科書になった日本人 「アストロスケール」岡田光信

アストロスケールの岡田光信 (写真=ヤン・ブース)


ユニークなのは衛星を除去する技術と、岡田のアイデアを支えるチームが地方の中小企業や国境を越えた技術者たちに広がる点だ。「日本中を本当に歩きましたよ」と、彼は苦笑する。岡田が考案したのは、「とりもち」のように特殊粘着剤で衝撃を緩和しながらゴミを捕獲し、大気圏に落とすことで“焼滅”させるものだ。

「世界中の化学メーカーを回ったのですが、聞かれるのは『何トンいるのか』でした。多くの人のつてを頼って、ある粘着剤の研究者にたどり着き、『どこだったらつくってくれますか?』と名前を聞き出し、すぐに電話をするようにしたのです」

電車を乗り継ぎ、地方の中小企業を訪ねたとき、初老の職人気質の経営者から岡田は「あなたに惚れた」と言われて、協力を取り付けた。もちろん、岡田が「デブリ問題というものがありまして」と、一から説明すると、変人扱いする者もいるが、地方を歩くと、共鳴して力を貸してくれる研究者や経営者はいたのだ。

「愛知県豊川市にある切削工具で世界的トップメーカーのオーエスジーさんは、会長に会って説得してもらいたいという話になりました。僕がシンガポールにいた日の夕方に連絡があり、明日朝10時なら会長が空いている、と。そこで深夜便で羽田に飛んで新幹線に乗り、10時にテーブルにつくと、『本当に来たんだ』と驚かれました(笑)」

こうして日本が得意とする技術が集結し、「スペース・スウィーパーズ(宇宙の掃除屋たち)」なるチームが結成された。

岡田の行動に注目したのが、HBSで「共有地の悲劇」を研究する准教授だった。多数の者が共有地の資源を乱獲することで資源の枯渇を招く経済学の法則だ。
 
岡田が言う。「共有地の悲劇を解決するのは、ルールをつくり、税金をかける自治体や政府です。世界統一政府があれば、デブリ問題も解決できますが、安全保障の問題が絡み、それができない。しかし、民間企業が透明なビジネスにすることで、解決ができるのです」。
 
アストロスケールは、15年に最初の資金調達に成功し、工場を建てた。

「毎日、世界中の若い人々から履歴書が届きます。行政経験者や技術者たちが仲間になりたいと言ってくれるのです」。全員を雇えないのが悔しいと岡田は言う。

ちなみに、履歴書を送ってくる人々の多くはこう言っているという。

「政府がやらないのなら、俺がやる」

アストロスケール岡田氏は8位にランクイン! 【日本の起業家ランキング2017】一覧はこちら!

文=藤吉雅春 スタイリング=石関淑史 ヘアメイク=桜井 浩

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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