早稲田大学ビジネススクール准教授。連載[グローバル・インサイト]を執筆。


英仏独の関係がなかなか微妙なのはやはり歴史的なコンテクストがあるからです。例えば、仏人口学者であるエマニュエル・トッドは、ドイツがいくら膨張しようと英国は身の危険をほとんど感じないが、フランスは大きな恐怖を感じてしまう、と述べています。

東アジアで言えば、中国がいくら国力を膨張させても日本は身の危険を自覚しないが、韓国は大きな恐怖を感じる、というのと似ています。

フランスはおそらくはその潜在的な恐怖感のもとで、通貨までドイツと共通とする道をかつて選びました。今回の仏大統領選挙で、フランスは対ドイツでどのような道を選びきれるのでしょうか。選択の内容によっては、ブレグジット以上のインパクトが金融市場にもたらされるかもしれません。これを、本年前半の第二のリスク要因とみなしたいと思います。

中期的なリスク

さらに、本年秋にはドイツ総選挙も予定されています。これら欧州の一連の選挙で、移民と自由貿易を制限しようとする極右政党がどの程度躍進しうるのか、現状では予断がつきません。また、躍進の度合いにももちろんよりますが、その場合、欧州でどのような政治状況が生じてくるのか、予測も難しいのが現状ではないでしょうか。

個人的には、欧州での極右政党の政治的なパワーの拡大は、トランプ大統領よりもやっかいだと思っています。

アメリカの多くの友人たちは、「トランプは普通の共和党の大統領になる可能性が結構高い」と言います。つまり、減税などで財政赤字を拡大、付随してドル高を招き貿易赤字も拡大、という状況は、レーガン政権及びブッシュ政権時にみられた「双子の赤字」状況と一緒だからです。

共和党の減税政策の本音の含意は、いわゆるマイノリティーへ所得移転の政府支出をするぐらいなら、それをやめてその分減税しましょう、ということです。

昨年11月の選挙では、議会も共和党が多数を握りました。議会共和党の多くの政治家は、上記のような減税を実現することが政治的な得点になります。彼らは、富裕層あるいはビジネス経営者層の代弁者であることによって、議席を得ているという非常に簡単な図式です。

しかし、一方、今回トランプを大統領に押し上げたのは、その伝統的な共和党支持層ではなく、製造業にしばりつけられながら衰退を甘受せざるを得なかった白人労働者層です。彼らに政治的にどのように報いるかのロードマップは実はまだトランプの頭の中にも明確には描き切れていないはずです。

議会共和党の術中にはまった場合、普通の共和党大統領となり、4年の任期を全うするだけになる可能性はないとはいえません(それが良いのかどうかは、また別の問題ですが)。

また、米国の政治システムは、おそらく欧州諸国あるいはEUよりも、分権的であり洗練されています。大統領のパワーも重層的にコントロールされており、欧州で極右系大統領が誕生した場合にさらされるリスクよりも、その副作用は相対的に軽微である可能性が高いです。

政治とイノベーション現場の隔離

こうやって、欧米の最近の政治リスクについて論じている際いつも感じるのは、シリコンバレーなどで我々が圧倒されるビジネスの現場におけるイノベーションの質とスピードと、あまりに距離がありすぎる移民問題や自由貿易制限の議論が、同じ国で同時に行われていることです。

こういった感慨は、私が外からみているが故に感じる特有なものなのでしょうか。もし、その私の感覚が正しいのなら、実はそこに、今米国・欧州が直面している問題への何らかの解があるような気がしていますが、それはまた別の稿でお話させていただければと思います。

文=樋原伸彦

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