「ぼくは主にプロジェクトの資金部分を担当していますが、チームインダスのランダーにローバーを積むとなるとこれまでより資金が余計にかかる。パートナーシップ、クラウドファンディング、またプラスアルファのプランを練って、資金的に隙がないようにプロジェクトを進めていきたい」(中村)
そして、チームインダスと組むとなると、課題がもうひとつ浮上する。相乗りする月着陸船(ランダー)が変わるので、ローバーにも一部仕様変更を加えなければならない。ランダーとの物理的なインターフェース、通信を行うためのソフトウェアなどがそれにあたる。
「契約の変更については、すぐにメンバーも事実を受け入れ、チームとして再結束をはかりました。プロジェジェクトの目的はあくまでレースに勝つこと。ぼく自身としては、このようなトラブル込みでのチャレンジだと考えています」
中村がアストロボティックのリタイアを「素直に喜べない」としたのには、もうひとつ理由がある。というのも、彼らはライバルであると同時に、パートナーでもあったからだ。民間初の月面探査レースで優勝するという共通の目標を抱え、切磋琢磨してきた両チーム。中村は、その片翼を失うことに悔しさが大きいと話す。
「アストロボティックとは関係性が深かっただけに、とても残念です。15年にはアストロボティックの拠点であるアメリカのピッツバーグで共同実験をして、エンジニア同士の交流もありました」
アストロボティックのリタイアは、中村たちにとって単なるライバルの離脱ということではなく、もっと異なる意味合いがある。今回のレースはとりあえずの出発点に過ぎない。Google Lunar XPRIZEで参加したチームは、明日のビジネスのために、ともに手を携え、宇宙での産業を盛り上げていこうと誓った戦友でもあるのだ。
「Google Lunar XPRIZE参加したチームはみな、各々の宇宙ビジネスの長期的な計画を立て、そのマイルストーンとしてレースを位置づけています。アストロボティックも彼らの事業計画と照らし合わせて、リタイアという結論を導き出したはずなので、苦渋の選択だったと思います」(中村)
民間初の月面探査レースであるGoogle Lunar XPRIZE。その先に、中村自身はすでに次の目標を見出している。ispace社の会議室のホワイトボードに、地球と月の絵を描き始めた中村。ふたつの絵を一本の線で結び、中村が語った大いなる可能性を秘めた宇宙ビシネスの展望は、次回の後編でレポートする。
*Forbes JAPANは、月面探査用ロボットの打ち上げまで、HAKUTOプロジェクトの動きを追いかけていく。
au HAKUTO MOON CHALLENGE 公式サイト