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米国の体外受精産業は、年間売り上げ約20億ドルという規模にせよ、年率10%以上という成長性にせよ、プライベート・エクイティが好むものを備えている。

リプロダクティブ・バイオロジー・アソシエーツ(RBA)と、米国で提供される卵子の約40%を凍結保存するマイ・エッグ・バンクの買収によって、プレリュードは早くも黒字化した。売り上げは推定3,500万ドル。成長を継続する体制もできている。リー・エクイティのコリンズ・ウォードは「全国に展開し、全米の体外受精クリニックと提携するつもりです」と言う。

ただ、不妊ではない女性の卵子凍結に対する懐疑や批判は枚挙にいとまがない。卵子の採取と凍結はほとんどの場合安全だが、注射が不可欠であるため、腫れや不快感を招く場合がある。数は少ないが、病院での治療が必要なほどの合併症が出るケースもある。

また、業界が利益を優先しているという批判もある。14年に米国で誕生した赤ん坊のうち、体外受精で授かったのはわずか1.6%であることを考えても。だが、コストを問題にするのは、ある意味で的を外している。女性たちは体外受精そのものがしたくて卵子を凍結するわけではない。選択肢を確保するためだ。生物学的な時計を巻き戻したり、男性同様に自由にキャリアを追求したりするための保険なのだ。たとえ凍結した卵子を使わずに終わっても、それは心の平安を得るために必要なコストなのである。

ミレニアル世代に「“未来”を見せる」

ある最近の研究では「比較的若い女性が卵子を凍結するのはよい考えかどうか」ではなく、もはや「いつそれを行うのが最適か」が問われていた。研究の責任者であるカリフォルニア生殖研究所のトルガ・ミーセン博士は「卵子凍結は女性の人生を変えるのです」と言う。

「私は完全に解放された、そう感じます」と、シリコンバレーの著名な社会起業家であるレイラ・ジャナ(33)は晴れた表情で語った。彼女は最近、自身の卵子凍結の決断を文章にしたためた。

ジャナは、専門職の女性たちがしばしば相反するメッセージを向けられていると言う。仕事での成功ばかりでなく、「落ち着く」ことを強く求められるのだ。それも、望ましいパートナーと出会っているかどうかに関わりなく。「女性たちを労働市場に、そして世界に100%参加させたいなら、欲しくなった時に家族をもつ選択肢を与える必要があります」と、ジャナは言う。

プレリュードがデリケートな領域に飛び込もうとしていることを、バルサブスキーは痛いほど認識している。しかし彼は、自身の経験からも、単に子供をもてないだけではなく、欲しいだけの数の子供をもてないことも含むあらゆる形の不妊が、その家族に重い負担を強いているという信念に突き動かされてきた。

「自身の経験と感情が原動力になっているのです」と、プレリュードの最高売り上げ責任者であるティア・ニューカマーは言う。彼女の夫はガンを克服した元患者であり、18歳で診断を受けたとき、精子の凍結保存を選択しなかった。そのため夫妻が子供をもつにあたり、精子ドナーの助けを借りなければならなかった。

バルサブスキーは、恐怖をあおることよりも啓発に力点を置いたマーケティング・キャンペーンを策定中だ。多数の体外受精クリニックと提携してプレリュード・メソッドを提供し、全米に進出する構想を立てている。「プレリュードの科学は受けいれられるでしょう」と、彼は言う。

「我々が失敗するとしたらそれは、ミレニアル世代に“未来”を考えさせることができなかったということです」


マルティン・バルサブスキー◎1960年、ブエノスアイレス生まれ。ネット共有サービス「FON」、ポータルサイト「Ya.com」、長距離電話キャリア「ジャステル」などで知られるシリアルアントレプレナー。コロンビア大教授。

翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

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