リクルートグループのIT・ネットマーケティングを担うリクルートテクノロジーズ。その中でも、より専門的な研究開発でイノベーションを育んでいるのがアドバンスドテクノロジーラボ(ATL)だ。
そこで人工知能・ロボット分野を担当する塩澤繁は、金融機関出身ならではの“持続的な経済成長”に根ざした視点で、最新技術を駆使した社会課題解決へ取り組んでいる。「5分程度の会話ですが、店頭でお客様が涙ぐむシーンもありました」
家探しを相談できるスーモカウンターで、ある来店客が日常的に抱えていた悩みを相談し始めた。応対したのは人型ロボットPepper。接客業務用に置かれていたが、上手く会話を運び、落ち込んでいた来店客を励まし続けたという。人間の言葉の意図を解釈・理解する独自の会話エンジンをPepperに搭載したかった――と塩澤繁は話す。
「最大の特長は、自由に会話ができることです」
2012年から自然言語処理に取り組んできたATL。その技術を応用したクラウド型の会話エンジン「TAISHI」は、スーモカウンターのwebサイトでQ&A対応を行うコンシェルジュ「スミヨ」や沖縄銀行のPepperにも搭載されている。窓口案内や店舗サービスといった業務に直結する会話と、一般的な雑談の両方に受け応えが可能だ。
会話をリッチにしたい――沖縄銀行は大きな期待を寄せていた。というのも、標準的なPepperは金融知識をほとんど持ち合わせていないのだ。
例えば来店した顧客がPepperに投資信託に関する会話を投げかけたとしても、うまく答えを返せない。ATLの会話エンジンを搭載することで、開発負荷をかけずにこの課題は解決できると塩澤は語る。
「よくある質問や適した回答をExcelに登録するだけで、会話パターンをどんどん増やせます。多少の言葉のゆらぎ表現については、我々の会話エンジン側が吸収します。ある程度のパターンを用意してもらえれば、どのような産業やサービスにも応用できます。方言などにも対応できます」
2〜3年後にこの技術が実用化されれば、より素晴らしい世の中になるのではないか。ATLはその思いを軸に、研究開発に取り組んでいく。社員一人ひとりが異なる研究開発テーマを担当し、複数の外部パートナー付きチームを構成する。多岐に渡る先端技術をカバーしている。2017年に向け、関心が高まっている領域として“ドローン”や“脳波との連携”を塩澤は挙げた。
「これまでの会話エンジンは、テキストや音声で話しかけないとこちらの要望がコンピュータに伝わりませんでした。脳波を活用すれば、こちらから会話を投げかけなくても頭の中で考えるだけで、ロボットが人間の気持ちを汲み取って会話パターンを変えてくれます」
世の中になければ創り出すのがATL流だ。そんなことができるのは、経営陣のITに対する理解と十分な予算投下が企業風土としてあるからだ。Pepperの発表前には、人型ロボットをATL内で独自開発する案まで盛り上がっていた。結果的にPepperを活用する形となったが、もし存在しなかったら店頭向け人型ロボットを自社開発する考えだったという。
「少子高齢化が進む日本の将来を考えると、業務の一部をロボットに任せていくことが必要です。会話エンジンについても、スマホやパソコンを操作できるかどうかで生じていた情報格差を、より簡単な対話型インターフェースで解決したいという思いがありました」
労働人口が減るなか、生産性に貢献できるようなテーマで研究開発をしていきたい。そんな視点に重きを置く塩澤の研究成果は今後も世の中へ浸透し、人々の日常生活の一助となるだろう。
塩澤 繁(しおざわ・しげる)◎リクルートテクノロジーズ ITソリューション統括部 アドバンスドテクノロジーラボ。外資系金融機関・国内金融機関に勤務後、2008年リクルート(当時)に中途入社。以降、アジャイル開発のマネジメント・海外拠点立ち上げを経て、リケジョとのIoT製品開発等を担当。現在は、自然言語会話エンジン(TAISHI)とロボットの開発に従事している。