ビジネス

2016.12.26

日本が「働き方後進国」を脱却するために必要なこと

illustration by Masao Yamazaki


一方、女性は長寿社会において、出産・子育て後に訪れる年月が増えることになりますが、これは男女不平等を減らすための大きなチャンスとなります。このチャンスを生かすためには、人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意思と能力、つまり変身資産へ投資することを学ばなくてはなりません。
 
その際に重要なのは、ロールモデルとなる存在でしょう。それはメインストリーム以外のキャリアパスを形成していくことにもつながります。起業家などの世界にいる志高い人たちのネットワークやコミュニティを見つけることが重要です。

ロングキャリアの視点が必要になる一方で、人々から仕事を奪う可能性もあるAIやロボティクスなどのテクノロジーは、ますます台頭してくるでしょう。これらの脅威は非常に現実的な問題です。

しかし、飛行機の自動操縦が普及してもパイロットという仕事がなくなったわけではないように、労働者を取り巻く環境は多くの評論家の出す見通しより悲観的なものではないはずです。ただ言えることは、多くの伝統的な仕事は消え、それに代わる新たな機会が誕生するだろうということです。
 
では、私たちは個人として、こうしたテクノロジーの変化を前に自分たちをどのようにリ・クリエイトしていけばよいのでしょう? これにはふたつの大切なことがあります。ひとつは、自分のスキルや生産性資産について投資をする“レジャータイム”という時間をつくらなければならないことです。これがなければあなたのスキルは時代遅れになってしまいます。

ふたつ目は、広く多様的なネットワークに投資をすることです。自分を成長させる新しいアイデアや、変化を促す新しいコミュニティに触れることができるからです。

ギグ・エコノミーが我々に恩恵を与える

テクノロジーによる変化に加えて、経済ビジネスモデルの転換も考えに入れる必要があります。私はその可能性を「ギグ・エコノミー」に見出しています。ギグ・エコノミーとは、ネット上で非正規の立場で単発の仕事を受発注することで、特に最近、若い世代でこの働き方を選ぶ人が増えています。
 
これにはふたつの背景があります。ひとつは、伝統的な手法によってキャリアパスを見つけるのが次第に難しくなってきていること。もうひとつは、長寿社会になって新たな行動様式が形成されてきたということです。21世紀は20代の行動から変化が生まれてくるのではないかと考えています。
 
また、100年時代にはオプションという概念が非常に重要になるでしょう。若者たちは将来、仕事や結婚、家や子供にコミットすることになりますが、こうした人生のそれぞれのステージに応じて働くには、ギグ・エコノミーが非常に適しています。仕事とレジャーのより良いバランスを得られるし、学びと経験の機会を十分に与えられるからです。

そしてこのギグ・エコノミーは、これまでとは違うワーク・ライフ・バランスを求めている年配の人たちにも恩恵を与えることになります。
 
次世代のテクノロジーの波は情報を与えるのであって、コンシャスネス=意識を与えるのではありません。情報は自由に手に入るようなっていきます。富とアイデアのソースは遊びやイノベーション、人の共感や理解の中から生まれることになるでしょう。


アンドリュー・スコット◎ロンドン・ビジネススクール経済学教授、前副学長。オックスフォード大学を構成するオール・ソウルズカレッジのフェローであり、かつ欧州の主要な研究機関CEPR(Centre for Economic Policy Research)のフェローも務める。2005年より、モーリシャス大統領の経済アドバイザー。財政政策、債務マネジメント、金融政策、資産市場とリスクシェアリング、開放経済、動学モデルなど、マクロ経済に主要な関心を持っている。

インタビュー&翻訳=谷本有香 鈴木裕也=編集

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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