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2016.12.28

【鼎談1万字!】日本のマネーマスター3人が語る「資産大国ニッポン」への道

[左]ゆうちょ銀行取締役兼代表執行役副社長 佐護勝紀 [中]Forbes JAPAN編集長 高野真[右]GPIF理事兼CIO 水野弘道


高野:GPIFは「機関投資家」でありながら、公的な側面が強い。運用者は、成果を出さなくてはいけないけれども、組織やプロセスの透明性も求められます。「ガラス張りの中で運用すること」が求められるというのは、GPIF特有の難しさですよね。

水野:GPIFは運用資産が大きいので市場に与えるインパクトにも配慮する必要がある一方で、常に透明性を求められる。それに加えて、規制によりもっと規模の小さい投資家ですら使えるような運用ツールや新たな金融商品も簡単には導入することができません。こうした点が、GPIFでポートフォリオを構築するうえでの難しさだと思います。
 
先ほども触れましたが、GPIFのミッションは、超長期的に積立金の実質的な運用利回り1.7%を、できるだけ少ないリスクで確保することにあります。1億2000万人の日本人がGPIFのある意味、出資者でありお客様です。「リスクを取るな」と言う人も、「もっと積極的に運用して欲しい」と考える人もいる。

さまざまなリスク許容度を持つ人々に納得してもらうためには、自らの透明性を高めるしか方法がないとすら思っています。そこでGPIFは、昨年度から投資先の全銘柄の公開に踏み切ったのです。

高野:佐護さんや水野さんの立場で一番気を遣うのは、本来なら中長期の投資であっても、短期的なパフォーマンスでも評価されるというギャップだと思います。長期投資だから短期的なパフォーマンスは気にしなくていいわけではなくて、ある程度、短期的な視点からの批判にも耐えられるようなポートフォリオ構築が必要でしょう。

つまり、何かあった時に、そのショックに耐えられるような運用です。GPIFとゆうちょ銀行では位置づけも運用資金の意味合いも違うと思いますが、何か気をつけていることはありますか?

佐護:GPIFは超長期投資ですが、ゆうちょ銀行はせいぜい中長期投資くらいですから、その点についてそれほどジレンマはありません。

一方で、私が常に頭を悩ませているのは、運用内容を貯金者や株主にいかに理解してもらうかです。金融は極めて専門性が高く理解しづらい部分が多い。ところが貯金者も株主も大半は個人ですから、金融に関しての専門性が高い人ばかりだというわけではありません。

金融、運用という複雑怪奇なことを、なるべく平易な言葉で説明しなくてはいけないという気持ちを持っていますが、そのギャップを完全に埋めることは難しいですね。

水野:GPIFでは、25年の長期投資を想定してポートフォリオを構築しています。「長期投資」というよりは、「超、超、超長期的な投資」と言えるでしょう。超長期投資を前提にポートフォリオを構築していますから、例えば最近話題の短期のボラティリティが起きても、25年という期間で見れば理論的には最適化されていることになる。

ただ、実際には四半期ごとの運用成績発表のたびにメデイアを賑わすという状態ですから、私たちは運用のリスク管理だけではなくて、ステークホルダーの安心感も無視できません。時にはそれが矛盾するように見えることもある。そこが難しいところだと思います。
 
ゆうちょ銀行の運用成績を気にする人の多くは株主でしょう。ただし、彼らにはゆうちょ銀行の株主にならないという選択肢がある。

一方、公的年金の場合は、GPIFにお金を預けないという選択肢はありません。公的年金を預かるとなると、誰のリスク・アペタイト(進んで引き受けようとするリスクの種類と量)を意識して運用するかーーこれは海外の年金基金も苦労しています。
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構成=山川徹 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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