人や企業の成長に必要な「真っすぐさ」を問い直せ

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各界のCEOが読むべき一冊をすすめる本誌の連載「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、モバイルファクトリーの宮嶌裕二代表取締役が、努力と成長を描いた青春漫画「BLUE GIANT」を紹介する。


「絶対に世界一のジャズプレーヤーになる!」

主人公の大(ダイ)は高校生で、まだサックスを始めたばかり。楽譜すら読めません。その大の夢が、世界一のジャズプレーヤーだと聞けば、誰もが無謀だと思うでしょう。しかし、本人には微塵の迷いもありません。

雨の日も雪の日も、河原でサックスを吹き続けます。その姿を見ているうちに、いつしか大を応援し、誰もが「努力すれば夢は叶うのだ」と確信するー本書はそんな清々しいストーリーの漫画です。
 
マンガ雑誌『ビッグコミック』で、「BLUEGIANT」の連載が始まった2013年。時を同じくして、私が創業したモバイルファクトリーも株式上場に向けて動き始めました。
 
我が社が属するスマホゲーム市場は、急速にレッドオーシャン化が進んでいます。日に数十個リリースされる膨大な数のゲームアプリの中で、ヒットする確率は0.5%もなく、まして飽きられない息の長いゲームに育つ確率は、天文学的な数字です。
 
この業界で生き残るためには、株式を上場し、質の高いゲームを開発する力と資金力を得るしかないと考えていました。
 
しかし、上場するのもまた天文学的確率のいばらの道です。ここ20年だけを見ても、起業した会社が上場できた確率は、わずか0.05%ほどなのですから。でも、モバイルファクトリーは、あと少し手を伸ばせばチャンスを手中にできるところにいたのです。

「チャンスがあるなら絶対やる!」。もしかしたら、がむしゃらに努力する大と自分を、無意識に重ね合わせていたのかもしれません。
 
継続率の高い「位置ゲーム」に資源を集中させるため、他ソーシャルアプリサービスの縮小を決意。固定ファンがいたことや位置ゲーム同様に成長を牽引してくれた分野であったため、社内からは反発もありました。しかし、他にはない強みを持ち、長く楽しんでもらえるサービスに注力することがビジネスの本質であり、成功に繋がると考えました。
 
15年3月。モバイルファクトリーは東京証券取引所マザーズに上場しました。
 
上場式典の時に、東証内の電光掲示板に映し出された会社名を見て、頭に浮かんできたのは、「ありがとう」の言葉だけでした。創業してから14年、社員や家族や友人達の支えがなければ、ここまで来ることはできなかったでしょう。
 
大も、大好きなサックスだけに集中し、多くの応援や批判すらも力にしながら、夢へと真っすぐ進んでいきます。人も企業も、「成長する」ということは、努力し、期待を上回る結果を出す、その繰り返しなのではないかと思うのです。
 
ぜひ、本書から聞こえてくる大のダイナミックな演奏に耳を傾けながら、自分が進んでいる道について考えてみてはいかがでしょうか。

title:BLUE GIANT
author:石塚真一
data:小学館 600円+税/224ページ




宮嶌裕二(みやじま・ゆうじ)◎1971年、東京生まれ。95年、大学卒業後、ソフトバンクに入社。99年にサイバーエージェントに転職し、新規開拓営業、新規事業立ち上げを行う。2001年、モバイルファクトリーを設立。03年に株式会社に組織変更し、代表取締役就任。15年、東証マザーズに上場した。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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