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2016.12.20 15:15

インド現地レポート 「高額紙幣の廃止」のナゼがわかる、モディ首相の戦略

ATM前に長蛇の列ができている。(Photo by Virendra Singh Gosain/Hindustan Times via Getty Images)


インドの地下経済はGDPの2割を占めるといわれている。「ブラックマネー」といわれる統計上あらわれない通貨が流通し、汚職、脱税、不正蓄財、偽造といった問題の温床となっていることは、インドにとって長年にわたる重い課題だった。
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また、前述のとおり、インドでは国民の半数が銀行口座を保有していない。デビットカードの保有割合は2割にとどまり、クレジットカードの保有割合はさらに下回る。社会給付も現金により提供されるため、給付の過程で搾取されることも大きな問題となっている。このため、モディ首相は、就任以来、国民全員に銀行口座をもたせ、社会給付を直接届けるという「金融包摂」の政策を積極的に推進してきた。

今回の高額紙幣の廃止は、ブラックマネーをあぶりだし、さらに、紙幣の交換を行う過程で銀行口座の開設を促す点で、大きな効果を発揮する。不正を撲滅し、課税基盤を強化するとともに、金融機能を高め、経済の効率化が実現できる。発表の突然さ、約9割という無効化の規模は、ドラスティックではあるが、その分、かつてないほどのインパクトを期待できる。インド準備銀行(中銀)によれば、発表後1か月間で旧紙幣の9割にあたる21兆円が回収できたという。

「現金の呪い」からの脱却・・・これは、世界で最も影響力のある経済学者の一人であるハーバード大学のケネス・ロゴフ教授が8月に上梓した新著『The Curse of Cash』のテーマでもある。
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ロゴフ教授は、2011年に上梓した『国家は破綻する-金融危機の800年』において、国家財政と経済成長の関係を歴史的に考察し、世界中で話題を呼んだ。今回の著書では、現金が、いかに経済において重要な役割を果たしてきたかを歴史的に考察した上で、現代経済において、いかに汚職、脱税、不正蓄財、偽造といった問題の温床となるかを指摘する。そして、世界経済は現金への依存を低下させるべきと主張する。

インドの政策は、このようなロゴフ教授の主張にも沿うものである。たしかに、短期的な混乱は避けがたい。また、政府の準備不足は明らかであり、この点については賛成派すら厳しい批判を浴びせている。規模の面で世界的にも例を見ない政策だけに、その政策の評価を現時点で行うことは困難である。

ロゴフ教授も、インドのメディアやウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、短期的な混乱を割り引いても、長期的にみればプラスの効果を生む可能性がある、しかし現時点で判断することは難しい、と率直にコメントしている。

もっとも、銀行預金の増加、それに伴う金利の低下、さらにEコマースの拡大といった効果は早くも現れ始めている。インド政府は、追加的な汚職対策を検討しており、17年4月には物品・サービス税の導入という歴史的な改革も予定されている。金融包摂やブラックマネー対策といった過去の取り組みとこれらの新たな政策がかみあえば、改革の成果は思ったよりも早く現れるかもしれない。

モディ首相の絶大なリーダーシップ

それにしても、長期的には経済にとってプラスになる可能性があるといっても、これだけ経済を混乱させ、しかも、日常生活に不便を生じさせる政策であれば、国民からは大きな不満の声が上がると予想するのが通常である。

ところが、前述のとおり、インド国民から恨みの声が聞かれることはあまりない。むしろ、世論調査や各州の地方組織での選挙結果からは、モディ政権への支持は高まっていることが示されている。

このような事態が生じるのはなぜか。それは、国民がモディ首相に対して絶大な信頼を寄せているからである。モディ首相は、14年5月に就任してすでに3年目を迎えているが、直近の世論調査においても、国民の支持率は80%を超えている。
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編集 = Forbes JAPAN 編集部

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