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2016.12.20

インド現地レポート 「高額紙幣の廃止」のナゼがわかる、モディ首相の戦略

ATM前に長蛇の列ができている。(Photo by Virendra Singh Gosain/Hindustan Times via Getty Images)


海外では、期待されていたほど改革が進んでいないといった厳しい評価もあるが、インド国内では、インドを正しい方向に導くことができる唯一無二のリーダーであるという評価に揺るぎはない。

モディ首相は、1) 汚職と無縁、2) 合理的な思考、3) 強力な政治基盤という3点を兼ね備えているという意味で、インドにかつていなかった、最高の指導者といえる。

第一に、汚職の点については、インドの政治家は、程度の差はあれ、数多くの政治家が腐敗に手を染めている、といわれる。その最たるものとして批判されるのが、独立以来、長期間にわたり政権与党として君臨してきた国民会議派である。この政党は、「ガンディー王朝」といわれるように、創始者のネルーから連なるガンディー一族による支配が貫徹している。このため、腐敗の度合いも著しいと批判される。

また、地域政党も、金品や物品をばらまくポピュリスト的手法をとるものが多く、腐敗が糾弾される有力なリーダーも少なくない。

現政権を担う与党BJPも例外ではなく、腐敗の批判からは免れない。ただ、国民会議派や有力地域政党よりはまだその度合いは少ない、と見られている。とはいえ、五十歩百歩という見方もある。

しかし、モディ首相だけは例外である。モディ首相は絶対に腐敗していない、という点では、大部分のインド国民の見解が一致している。

それはなぜかといえば、厳格なヒンドゥー主義者であることに由来するストイックな人格もあるが、最も注目に値するのは、家族がいないことである。モディ首相は、法律的には婚姻しているが、事実上は独身を貫いており、子どももいない。低所得層出身のため、ガンディー家のような巨大な一族もない。このため、蓄財のインセンティブがなく、したがって汚職も発生しない、というわけである。

第二に、合理的思考については、モディ首相は聡明で、極めて合理的、ビジネスの発展を何より重視する実利主義者である。首相に就任する前にはグジャラート州首相を10年務めたが、在任中、事業環境を大幅に改善し、同州の経済を大きく発展させた。この実績が評価され、BJPのリーダーに就任、2014年の下院選で「モディ・ブーム」という旋風を巻き起こし、BJPを大勝に導いた。

一日3時間しか眠らず、毎日20時間働き、休暇もとらないという仕事人間。誰もその超人的なペースにはついていけないといわれる。アイディアに富み、就任以来、「メーク・イン・インディア」「デジタル・インディア」「クリーン・インディア」といった様々なイニシアチブを打ち出してきた。今回の高額紙幣の廃止もモディ首相が考え出したといわれている。

最後に、政治基盤については、モディ首相は、前述のとおり、圧倒的な国民の支持を得ている。与党BJPは下院で過半数を確保しているが、すでに党内の保守派を一掃しており、党内での政治基盤も盤石である。

過去のインドの首相には、マンモハン・シンのように優れた経済学者もおり、その意味では合理的な思考をもったリーダーがいなかったわけではない。しかし、マンモハン・シン政権の最大の実力者は、国民会議派の総裁であるソニア・ガンジーだった。マンモハン・シンは、すべての政策を決める上でソニア・ガンジーの許可を得る必要があったといわれる。

腐敗に染まることがなく、合理的な政策を信奉し、かつそれを実行するだけの実力を備える。これらすべての条件を満たすリーダーはかつてインドにはいなかった。この意味で、モディ首相はまさしくインド史上において唯一無二のリーダーである。
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編集 = Forbes JAPAN 編集部

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