人気投資先はこれまでと変わらず米国、オーストラリア、英国、ドイツ、フランスで、トップの米国への投資が全体の57%を占めた。投資物件としてはオフィス物件のほか、ホテル、敷地開発も人気を集めた。中国資本の大量流出の背景には、中国政府による海外投資の奨励がある。
中国の直接投資をウォッチしているクッシュマン社のシンイー・マッキニーは「中国の国内経済の減速により、海外投資の魅力が増した。中国企業の体力に政策支援が加わり、“走出去”(中国政府の海外進出戦略)が不動産企業の共通トレンドになっている」と述べる。
また、「人民元安への懸念と米英のマーケットでの低金利が投資を加速させている」と指摘する。
高級ホテル16軒を7500億円で買収の事例も
今年目を引いたM&Aには、資産運用規模5,000億ドル(約58兆円)の中国政府系ファンド、中国投資がブルックフィールド・プロパティ・パートナーズと組み、1ニューヨーク・プラザの株式の49%を7億ドル(約808億円)で取得したケースがある。またマンハッタンでは、中国人寿保険がRXR Realtyと共同でオフィスビルを16億5,000万ドル(約1,900億円)で購入した。
かつてニューヨークの名門ホテル、ウォルドーフ・アストリア・ニューヨークを19億5,000万ドル(約2,250億円)で買収した安邦保険集団は5月、フォーシーズンズやリッツカールトンなど高級ホテル16軒を保有するストラテジック・ホテルズ・アンド・リゾーツを65億ドル(約7,500億円)で取得することにブラックストーン・グループと合意した。
米国とオーストラリアは中国の商業不動産投資先トップ2だが、ロンドンの人気も衰えていない。むしろEU離脱によって関心が増しているようだ。中国人の英国での商業不動産投資のほとんどはロンドンに集中している。投資家たちは英ポンドの変動も好機ととらえ、投資を急いでいる。
中国人投資家は、今後マーケットを拡大していくだろう。彼らはこれまで米国でニューヨークやロサンゼルスのような沿岸部の大都市に狙いを集中させていたが、ダラスやオースティンのような内陸部にも手を伸ばし始めた。ファンドや現地企業とのジョイントベンチャー等の投資も模索するようになるだろう。