ー2002年を「回顧の年」として、新作開発を止め、検証期間に当てていますね。
オパゾ:その効果は絶大でした。これ以降、量的にも新作は増えましたし、システマチックに創作できるようになったからです。過去の料理やメソッドへの理解が深まったことで、より多くの新しい組み合わせを試せるようになりました。これは、企業でも試す価値があるのではないでしょうか。
ー「面白いアイデアは混沌から生まれやすい」といわれていますが、エル・ブリでは規律(ディシプリン)が大きな役割を果たしています。
オパゾ:これは重要な点です。アドリアは、「規律なくして、創造なし」と話しています。彼は柔軟性の高い枠組みを設けることで、自由な創作環境を作りました。枠組みがしっかりしているから、安心して「アジテーター」や新素材、新しいテクノロジーを持ち込み、カオスを起こせたのです。
ーエル・ブリの創造性から、企業はどのようなことを学べるでしょうか。
オパゾ:2つあります。1つ目は、「組織をオープンにする」ことです。自分たちのクリエイティビティを内外で検証し、広めることにより、新たなアイデアを生み出す一方で、外部からも刺激を得られるでしょう。一般的に企業はヒットが生まれると、市場を独占することを考えます。エル・ブリも毎年、人気料理を出すだけで済んだはずです。予約が殺到していたのですから。でも、そうならないように組織を作りました。
2つ目は、「同じ成功を繰り返さない」ことです。彼らの成功の定義とは、ヒット商品をマイナーチェンジして出し続けるのではなく、新しいものを作ること、自分たちを未知の世界に放り込むことでした。
もちろん、そこにリスクはあります。でも、自分たちの進化を止めず、リーダーであり続けるためには、組織をオープンにし、変わり続けることが大事なのです。
マリア・ピラール・オパゾ◎米コロンビア・ビジネス・スクールの社会学者。専門は「組織論」。今年の7月に、エル・ブリと、新設されたエル・ブリ財団を組織論の観点から考察した『Appetite for Innovation:Creativity& Change at elBulli』(未邦訳)を上梓した。著書多数。